◆ 平成16年4月27日 東京地裁 平15(ワ)19075号・平16(ワ)6123号
平成15年(ワ)第19075号 過払金返還等請求事件
平成16年(ワ)第6123号 反訴請求事件
原告・反訴被告(以下「原告」という。)
●●
同訴訟代理人弁護士 ●●
被告・反訴原告(以下「被告」という。)
株式会社キャスコ
同代表者代表取締役 ●●
同訴訟代理人弁護士 ●●
主 文
1 被告は、原告に対し、1806円及びこれに対する平成15年9月2日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 被告の反訴請求を棄却する。
4 訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを2分し、それぞれを各自の負担とする。
5 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 本訴
被告は、原告に対し、30万円及びこれに対する平成15年9月2日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 反訴
原告は、被告に対し、14万6195円及びこれに対する平成16年1月29日から支払済みまで年26.28パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、サラ金業者である被告から金銭を借り入れた原告が、債務整理のために被告に対し全取引経過の開示を請求したのに、被告が一部しか開示せず、全部の取引経過を開示しなかったのは違法であるとして、不法行為に基づき、被告に対し、慰謝料20万円、弁護士費用10万円、合計30万円の損害の賠償を求めたのに対し、被告は、反訴として、原告に対する貸付残金の支払を求めた事案である。原告は、被告の反訴請求に対しては、上記損害賠償請求権との相殺を主張している。
2 前提事実
(1) 原告は、サラ金業者である被告から、別紙1のとおり、平成11年4月1日に10万円を借り入れて以後、9回にわたり追加貸付を受け、平成15年4月8日まで弁済を繰り返した(以下「本件取引」という。)。
(2) 原告は、複数のサラ金業者からの借入債務を整理するため、弁護士である原告訴訟代理人にその事務処理を委任し、同代理人は、被告に対し、平成15年5月9日付けの受任通知書面を送り、原告との間の全取引経過を開示することを求めた(甲1)。
3 主たる争点
(1) 被告は本件訴訟前に原告に対し全取引経過を開示する義務があるか否か
ア 原告
多重債務者の債務を整理してその経済的更生を図ることは、本人自身の利益に適うのはもとより、経済的困窮から起こる犯罪や家庭の崩壊等を防止し、本人及び家庭を経済的に再建することによって国民全体の社会保障費を低減させることになるのであるから、私益の問題のみならず、公益性があるのである。しかし、多重債務に陥るような借り手は、その返済等に関する資料のすべてを保管しておらず、各サラ金業者との間の取引経過の詳細を明確にすることが困難であるのが現実であり、多重債務者について、弁護士によって任意に債務を整理しようとする場合、すべてのサラ金業者から取引経過の開示を受けたうえで各債権者との間の再建債務額を確定し、公平で平等な処理を図るのでなければ、その目的を達し得ないことも自明である。したがって、サラ金業者は、借り手の代理人である弁護士から全取引経過の開示を請求された場合には、信義則上、これを開示する義務を負うのであり、これに反する行為は、社会的相当性を欠き違法であるというべきである。
原告は、代理人を通じて、被告に対し、何度も取引経過の開示を請求したが、被告は、開示した取引経過がすべてであるとして取引開始時期を偽り、全取引経過を開示しなかった。被告の行為は、社会的相当性を欠くものであって違法である。
イ 被告
サラ金業者が借り手に対して私法上取引経過を開示する義務があるとする根拠は見出し難い。また、仮にその義務が肯定されたとしても、被告は、平成15年5月27日には、いったん完済された後である平成11年10月21日の2度目の貸付以降について開示しているから、被告の行為に違法はない。
(2) 残存債務額について
ア 被告
本件取引における原告の弁済は、貸金業法43条1項のみなし弁済に当たるから、利息制限法の制限利率を超えた部分も弁済として有効である。これによれば、別紙2のとおり、平成15年4月8日の時点で残存元本額が42万0722円となる。
仮にそうでないとしても、別紙3のとおり、原告は、平成12年11月7日支払分から相当の頻度で遅滞を繰り返していたから、期限の利益を失い、その翌日から遅延損害金の制限利率26.28パーセントの割合による遅延損害金を支払う義務があり、これに従って残存債務を計算すると、別紙3のとおり、平成15年4月8日時点における元本が14万6195円である。
イ 原告
原告が被告と金銭消費貸借契約を締結した際に受領した契約書は、貸金業法17条1項所定の事項が網羅的に記載されている書面ではないのみならず、原告は、弁済の都度、被告から同法18条1項の書面の交付を受けていないから、原告の各弁済について同法43条1項が適用される余地はない。
本件全体取引による残存元本額は、別紙1のとおり、利息の制限利率によって計算すると、平成15年4月8日時点において8万5227円にとどまる。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) 甲2、3、5ないし9、16及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
ア 原告は、サラ金業者5社から借入をしており、返済が不能になったため、原告訴訟代理人に対し、自己破産の途も含めて債務整理をすることを委任した。原告は、5社との取引経過を明らかにする資料は所持していなかった。
イ 原告訴訟代理人は、前記のとおり、被告に対し、受任通知を送り、原告と被告との全取引経過の開示を請求した。これに対し、被告は、平成15年5月20日付け債権調査票を送り、原告の最終返済日が同年4月8日であって、その時点の残元本が42万0722円、利息残高が14135円であることのみを通知した(甲5)。
ウ 原告代理人は、被告に対し、同年5月26日付け取引経過開示請求書面(第2回)を送付した(甲6)。これに対し、被告は、翌27日付け書面を送付し、平成11年10月21日からの取引経過を開示した(甲7の3)。これによると、同日以降の貸付と弁済の経過が明らかにされ、利息の制限利率18パーセントによる利息の充当とそれを超える部分の元本への充当が計算されていた。
エ 原告訴訟代理人は、原告が平成11年10月21日以前から被告と取引をしていたことから、被告に対し、平成15年6月6日付け取引経過開示請求書面(第3回)を送付し、続いて同年7月7日付け同書面(第4回)を送付したが、被告から平成11年10月21日以前の取引経過が開示されることはなかった。
オ そこで、原告は、原告訴訟代理人を選任して、平成15年8月20日、被告に対し、被告の不開示行為は違法であるとして、それによる慰謝料及び弁護士費用の支払を求める本件訴訟を提起した。原告は、同時に、被告に対し、原被告間の取引に関する文書の提出命令の申立をしたが、その後被告から任意に全取引経過の開示がなされたため、原告は、文書提出命令申立を取り下げた。
なお、原告は、本件訴訟において、他の2社に対しても、過払金等の支払を求めたが、訴訟外において和解が成立し、受領した和解金は他のサラ金業者に対する債務の返済に充てた。
(2) ところで、サラ金業者は、多情債務に陥るなど債務整理をする必要に迫られている借り手から、債務整理を委任した弁護士を通じて、残債務又は過払金の有無・金額を明らかにするために全取引経過の開示を求められた場合には、信義則上、特段の事情のない限り、これに応じて全取引経過を開示す義務があるものであり、これに反して開示しなかったり、一部の取引経過しか開示しなかったりしたときには、それらの行為は違法であって不法行為を構成すると解するのが相当である。
上記認定事実に基づき検討すると、本件については、特段の事情があったとはいえないのに、被告は、原告代理人からの数回にわたる全取引経過の開示請求に対し、一部の取引経過しか開示せず、全取引経過の開示をしなかったものであるから、このような被告の不開示は違法であって不法行為に当たるというべきである。そして、この不法行為は遅くとも平成15年7月31日には成立したと認められる。
その結果、原告は、債務整理が遅れ、本件訴訟を提起せざるを得なかったのであるから、それによる精神的損害を被るとともに、本件訴訟提起にかかる弁護士費用を負担することとなったものと認められ、上記認定の諸事情に照らすと、慰謝料は12万円を下らず、弁護士費用は4万円が相当というべきである。
したがって、被告は、原告に対し、上記損害合計16万円及びこれに対する平成15年7月31日から支払済みまで年5パーセントの割合による遅延損害金を支払う義務がある。
2 争点(2)について
(1) 被告は、本件全体取引における原告の弁済について、いわゆるみなし弁済が成立している旨主張するけれども、原告に対し、各貸付時に貸金業法17条1項で要求されている書面が交付され、各弁済時に同法18条1項で要求されている書面が交付されていることの立証がないから、同法43条1項を適用する余地がなく、被告の主張を採用することはできない。
(2) 乙4によると、原告と被告との間の当初の金銭消費貸借契約において、約定の分割弁済金の支払を1度でも遅滞したときは当然に期限の利益を失う旨の合意がなされたことが認められる。そして、別紙3の取引経過のとおり、原告は、平成12年11月7日支払分から遅滞を繰り返したから、期限の利益を失い、その翌日から制限利率26.28パーセントの割合による遅延損害金を支払う義務があり、これに従って残存債務を計算すると、別紙3のとおり、平成15年4月8日時点における残元本が14万6195円となる。
したがって、原告は、被告に対し、14万6195円及びこれに対する平成15年4月9日から支払済みまで年26.82パーセントの割合による遅延損害金を支払う義務がある。
(3) 原告は、平成15年11月21日に開かれた第1回弁論準備期日において、原告の被告に対する前記損害賠償請求権と上記貸付債務とを対当額において相殺する旨の意思表示をしたから、その結果、相殺適状である平成15年7月31日時点における上記貸付債務額15万8194円(14万6195円の元本と平成15年4月9日から同年7月31日までの114日分の前記制限利率による遅延損害金1万1999円の合計額)は消滅し、原告の損害賠償請求権は、16万円から15万8194円を控除した1806円残存することとなる。
3 よって、原告の請求は、被告に対し、損害金1806円及びこれに対する平成15年9月2日から支払済みまで年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、被告の反訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 坂井満)
別紙1 利息制限法換算表〈省略〉
別紙2 取引履歴リスト〈省略〉
別紙3 利息制限法換算表〈省略〉


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