◆ 平成16年2月24日 東京地裁 平15(ワ)17731号
原告 A
同訴訟代理人弁護士 ●●
被告 株式会社エイワ
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 ●●
主 文
1 被告は、原告に対し、56万2969円及びこれに対する平成15年8月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、111万9738円及び内金87万2109円に対する平成15年4月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
本件は、貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)3条1項の登録を受けて貸金業を営む被告から金銭を借受けた原告が、利息制限法所定の制限利率に引き直して計算すると過払金が生じるとして、その返還を求めるとともに、被告が原被告間の取引履歴を開示しなかったことが不法行為にあたるとして慰謝料を請求する事案である。原告が被告から別紙1、2【別紙1は原告主張の計算書(甲2参照)、別紙2は被告の自店台帳照会書(乙2の1ないし22参照)であり、いずれも融資と返済の日時は同一である。なお、平成8年1月5日の弁済額が異なる点については後述する。】記載のとおり、金銭の借用と返済を繰返していたことは当事者間に争いがなく、被告はみなし弁済を主張している。
1 原告の主張
(1) 過払金返還請求
ア 原告と被告との間の取引を利息制限法所定の制限利率に引き直して計算すると別紙1のとおり87万2109円の過払金が生じ、被告は、原告の損失によって、同額の利益を得たことになる。
イ 被告は、利息制限法所定の制限利率を超えた約定利息の支払を受けていたから、制限利息を超えた支払いによる利得に法律上の原因がないことについての被告の悪意が推定され、被告が貸金業法43条のみなし弁済規定の適用を主張立証することができなければ、悪意の推定を覆すことができないとするのが相当である。
よって、被告は、悪意の不当利得者として、平成15年4月3日までの未払過払利息金合計4万7629円(別紙1参照)及び過払金87万2109円に対する同月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払わねばならない。
(2) みなし弁済について
ア 17条書面について
貸金業者は、貸金業法17条及び同法施行規則13条で要求された記載事項の全てを記載した書面(以下「17条書面」という。)を交付しなければならないところ、乙1の1ないし21については、別紙償還表が存在しないから、規則13条のヘ、チの要件(「利息の計算方法」「各回の返済期日及び返済金額」)を欠く。また、乙1の1ないし22については、借換えの対象である元本、利息を含めた従前の債務の残高とその内訳を記載していないので、貸金業法17条1項3号、貸金業施行規則13条1項1号カの要件を満たさない。
イ 18条書面について
送金の場合、たとえ償還表を交付していたとしても償還表をもって貸金業法18条及び同法施行規則で要求されている書面(以下「18条書面」という。)の代替とすることはできない。
ウ 債権者が借換えのときに取得する利息は利息の天引と同視しうるところ、天引利息には貸金業法43条1項の適用はない。
被告の取引に貸金業法43条1項の適用のないものが存すれば、その後の取引に際して被告が17条書面、もしくは18条書面として発行した書面は、事実と異なるものであるから同法43条1項適用の余地はない。
(3) 慰謝料請求
原告は、被告を含む複数の貸金業者から多額の借入れを受けた結果、支払い困難となり、弁護士会の法律相談センターを経由して弁護士に債務整理を依頼したいわゆる「多重債務者」である。
原告代理人は、金融監督庁の「事務ガイドライン(債務者、保証人その他の債務の弁済を行おうとするものから、帳簿の記載事項のうち、当該弁済に係る債務の内容について開示を求められたときは協力すること。)」に基づいて、被告に対し、取引開始時からの取引経過の開示を求めたが、過去3年分の取引経過はすみやかに開示されたものの、本訴に至るまでその余の部分の開示に応じない。
取引経過を開示するのは貸金業者である被告の義務であり、原告は被告の義務違反による精神的苦痛の慰謝料として20万円の支払を請求する。
(4) よって、原告は、被告に対し、不当利得返還請求権に基づいて、過払金87万2109円及び各過払金に対する平成15年4月3日までに生じた未払過払利息金4万7629円の合計91万9738円の支払いと慰謝料20万円の合計111万9738円及び内金87万2109円に対する平成15年4月4日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める。
2 被告の主張
(1) みなし弁済
ア 被告は、各貸付時に、原告に対し17条書面を交付した。
被告は、借換時にまず顧客の手持金から利息の返済を受け、旧債務の残金を元金のみとしてから、借換えの稟議を経たうえ融資の手続をしている。原告の主張は前提としている事実が異なるものである。
イ(ア) 被告は、原告が被告の各支店に返済金を持参して返済した際、その場で弁済金の元本利息の内訳が明示された領収書兼残高確認書を交付した。
貸金業者に18条書面の交付を義務づけた趣旨は、従来貸金業者の中に領収書すら交付しない者がいたために、債務者に元本充当の計算をする手がかりを与えるためである。したがって、18条書面には、利息制限法により引き直した金額を記載することは要求されておらず、支離滅裂な数字が記載されているならば格別、貸金業者が個々の弁済について元金及び利息に充当した金額を記載すれば足りる。
被告が原告に交付した上記領収書兼残高確認書は、被告がみなし弁済が成立することを前提に、本件各貸付時の約定利率にしたがって計算した結果、正しい金額が記載されているのであって、18条書面に当たる。
(イ) また、被告は、(ア)の領収書兼残高確認書のほかに、各貸付の際に、毎回、各回ごとの約定弁済年月日、各弁済額、元本・利息の内訳、融資残額を記載した償還表を交付した。原告は、この償還表により弁済金のうち元金に充当される金額及び利息に充当される金額を認識した上で弁済をしたものである。
みなし弁済が認められる趣旨は、債務者が元本額及び利息額を具体的に認識した上で支払った約定利率による利息の支払を有効にすることにある。そして、上記償還表は、個々の振込弁済の都度直ちに交付されたものではないが、みなし弁済が認められる趣旨にかなうことから、上記償還表の事前交付をもって、弁済時における18条書面の交付に代えることができる特段の事情があるというべきである。
(ウ) 仮に償還表が18条書面に当たらないとしても、領収書兼残高確認書を交付した持参弁済の場合に貸金業法43条が適用され、その場合における引き直し計算の結果、過払金は22万0076円を超えては発生しない(乙3参照)。
ウ 原告は、被告に対し、任意に各利息金を支払った。
エ 被告は、貸金業法43条のみなし弁済が適用されると認識していたから、悪意の受益者ではない。
(2) 慰謝料請求について
取引経過の開示を債権者の義務とする実体法上の根拠は存在しない。
被告は、原告に対して、契約書面、償還表、領収書兼残高確認書等の関係書類を全て交付したのであり、これらにより原告において元本充当の計算をすることは可能であり、関係書類の保存を怠った原告の不手際を被告の負担に帰するのは不合理である。
なお、被告は、貸金業法19条で帳簿保管義務を定められた過去3年分の取引履歴については、できるだけ速やかに支店にて開示を行うとともに、それ以前の履歴についても本店管理部において介入順に順次開示に協力している。
本件でも、被告は、原告に対し、過去3年分の取引経過について、原告代理人の開示請求の後速やかに開示を行っており、その際には、それ以前の取引経過についても順次本社で開示を行うこと、ただし、介入件数が近時増加しており、順次開示する関係上相当の時間がかかることを支店担当者らから数回にわたって原告代理人に連絡した上で開示作業に入ったものである。被告は、可能な限り開示に協力しているのであり、被告の行為は不法行為には当たらない。
3 争点
(1) 原告の弁済につき貸金業法43条1項のみなし弁済の適用があるか。
(2) 開示義務違反を理由とする慰謝料請求の可否
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)
(1) 17条書面の交付について
乙1の1ないし21、乙1の22の1ないし4によれば、被告は、原告に対して、平成3年から同9年までは被告川崎店において、同10年以降は被告蒲田店において合計22回の貸付を行っており、各貸付の際に被告が原告に交付した借用証書の写しは、17条書面に当たるものと認められる。原告指摘のとおり、本訴で提出された乙1の1ないし21の借用証書には償還表は添付されていないが、利息の計算方法は、借用証書の条項上で明示されており、各回の返済期日及び返済金額は、各借用証書の第1条において明示されている。
また、原告は、上記各借用証書は、貸金業法17条1項3号、貸金業施行規則13条1項1号カに定める「当該契約が、従前の貸付けの契約に基づく債務の残高を貸付金額とする貸付けに係る契約であるときは、従前の貸付けの契約に基づく債務の残高の内訳及び当該貸付の契約を特定しうる事項」が記載されていないと主張するが、乙1の2ないし21、乙1の22の1ないし4によれば、借用証書の写しには貸付金額のほか、従前の貸付の残額があるときは、「従前の貸付けの債務」として、従前の貸付けを契約番号で特定した上で、その残元金額を明記してその残元金額が貸付金額に含まれている旨記載され、従前の貸付けの利息及び損害金がない旨も該当箇所に棒線を引くなどして記載されていることが認められるから、原告の主張は採用することができない。
(2) 18条書面の交付について
ア 乙4(枝番号を含む)によれば、被告が原告から持参弁済を受けた際に交付した領収書兼残高確認書は、18条書面に当たるものと認められる(ただし、乙4の17の1、乙4の20の1は、記載に不備があり18条書面とは認められない。)。
なお、18条書面は、弁済の事実及び貸金業者の受領金額のほか、貸金業法18条1項4号の記載事項により、貸金業者が受領金額を利息、損害金及び元本のいずれにいくら充当したかを弁済者に明らかにすることにより、弁済者が貸金業者に利息制限法に従った充当と計算を求め、その計算に従ってその後の弁済額を定め、過払金があればその返還を請求する機会を与えるためのものと解されること、貸金業法43条は、18条書面の交付等を要件として、利息制限法所定の制限利率を超える利息の支払を有効な利息の債務の弁済とみなして、貸金業者が利息制限法所定の制限利率を超える利息を受領することを認めていることから考えて、18条書面に記載すべき利息充当額、元本充当額及び融資残高は、必ずしも利息制限法所定の制限利率に基づいて算定した金額でなければならないものではないと解するのが相当である。このことは、従前の弁済に貸金業法43条の適用がない結果、貸金業者が弁済受領時に認識していた残元利金額が利息制限法所定の制限利率に基づく正しい残元利金額より多額であっても変わりはない。また、証拠上、原告の借換えにあたり被告が貸付金利息を天引きしていた事実は認められず、原告の主張のうち(2)ウは失当である。
イ 被告は、償還表が18条書面に当たると主張するが、償還表は現実の弁済前に交付される弁済の予定表であることは明らかであり、18条書面はあくまで現実の弁済があった際に交付すべきものであることは、アに記載した18条書面の交付の趣旨からも明らかであり、被告の主張は採用することができない。
(3) 原告の過払額について
ア 以上によれば、原告の弁済のうち平成11年9月11日及び平成13年3月10日の弁済を除く持参弁済については、貸金業法43条の適用があるが、その余の弁済については同条の適用はない。
そして、同条の適用がない弁済については、借入金債務につき利息制限法所定の制限利率を超える部分は、残元本に法定充当される。そして、この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合は、本件貸付けと弁済は同一当事者間の一連の取引であること、民法489条は、他の債務に関する法定充当を認めていること、原告と被告は、各貸付時に前回の貸付金が完済されたとの取扱いをして残債務を一体化していることから考えて、過払金は、新たな貸付時に新たな貸付金の弁済に充当されることが当事者の合理的な意思であったと認めるのが相当であり、本件各貸付けの元利充当計算は、各取引を一連のものとして通算すべきである。
なお、原告主張の計算書である別紙1と被告の自店台帳照会書である別紙2(乙2の10に該当する部分。)は、平成8年1月5日の弁済金額が異なっている。同日の弁済は振込送金で行われていて、被告から領収書兼残高確認書は提出されていないが、同日の直後である同月10日に原告が1000円を振込返済している(当事者間に争いがない。)ことからすれば、原告は、同月5日に1万4000円を振込み、返済に不足した金額を含め1000円をさらに振込送金したとみるのが合理的であり、同月5日の振込返済金は1万4000円であるものと認める。
イ 原告は、被告が悪意の受益者であると主張するが、本件各貸付に係る約定利息が利息制限法所定の制限利率を超えていることから過払金の発生について直ちに被告の悪意を推認することはできず、他に被告が悪意の受益者であることを認めるに足りる証拠はない。
不当利得返還債務は、その履行の請求を受けたときから履行遅滞の責任を負うところ、記録上明らかな履行の請求日は、本訴状送達の日である。
ウ 以上によれば、原告の不当利得返還請求は、別紙計算書のとおり、過払金56万2969円及びこれに対する平成15年8月20日(訴状送達日の翌日)から年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
2 争点(2)
本件においては、過去3年分の取引経過はすみやかに開示されたことは当事者間に争いがなく、被告が過去3年以前の取引開示を拒否している姿勢は全く認められないから、開示拒否を理由とする慰謝料請求には理由がない。
3 よって主文のとおり判決する。
(裁判官 今井和桂子)
(別紙1) 〈省略〉
(別紙2) 取引明細リスト〈省略〉
(別紙) 計算書〈省略〉


コメント