◆ 平成16年7月9日 最高裁第二小法廷 平16(オ)424号・平16(受)425号
主 文
原判決中上告人らの敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理 由
上告代理人和田聖仁の上告受理申立て理由について
1 原審が確定した事実関係は、次のとおりである。
(1) 写真の現像等を業とする株式会社である上告人株式会社Y1は、平成9年6月23日、貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)3条所定の登録を受けて貸金業を営む被上告人との間で、「約定書(基本約定)」を取り交わし、上告人Y2及び上告人Y3は、同年8月25日、被上告人に対し、この約定に基づき上告人株式会社Y1が被上告人に対して負担する債務について、保証債務極度額を600万円、保証期間を平成14年6月22日までとする連帯保証をした。
上告人株式会社Y1及び上告人Y2は、平成11年5月18日、被上告人との間で、上記「約定書(基本約定)」と同旨の「基本取引約定書兼根保証契約書」(以下、「約定書(基本約定)」又は「基本取引約定書兼根保証契約書」による取引約定を「本件基本取引約定」という。)を取り交わした。
(2) 被上告人は、本件基本取引約定に基づき、上告人株式会社Y1に対し、平成9年6月23日から平成12年2月14日までの間、第1審判決別紙計算書の「年月日」欄(ただし、対応する「貸金額」欄が空欄のものを除く。)記載の日に「貸金額」欄記載の金銭を貸し付けたが、その際、「天引額」欄記載の金額を天引きした上で「交付額」欄記載の金額を交付した(これらの貸付けを同計算書記載の番号に従い、「貸付け1」などという。)。
上告人株式会社Y1は、被上告人に対し、貸付け1から30までについては、同計算書の「年月日」欄(ただし、対応する「支払額」欄が空欄のものを除く。)記載の日に「支払額」欄記載の金額を弁済しており、これらの貸付けは完済になっている。
(3) また、被上告人は、本件基本取引約定に基づき、上告人株式会社Y1に対し、平成12年5月11日から平成13年7月19日までの間、同計算書の「年月日」欄(ただし、対応する「貸金額」欄が空欄のものを除く。)記載の日に「貸金額」欄記載の金銭を利息等を天引きすることなく貸し付けた(これらの貸付けについても、同計算書記載の番号に従い、「貸付け31」などという。)。
上告人株式会社Y1は、被上告人に対し、貸付け31から39までについては、同計算書の「年月日」欄(ただし、対応する「支払額」欄が空欄のものを除く。)記載の日に「支払額」欄記載の金額を弁済したが、貸付け40から42までについては弁済していない。
(4) 貸付け31から33までについては、手形決済の方法で弁済がされており、被上告人は、上告人株式会社Y1から各弁済を受けてから7ないし10日以上後に、領収書(以下「本件各領収書」という。)を上告人株式会社Y1に交付している。
2 本件は、上告人株式会社Y1が、被上告人に対し、上記各貸付けにつき支払われた利息等のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超える部分を元本に充当すると過払金が生じているとして、不当利得返還請求権に基づき、過払金の返還を請求し、被上告人が、上告人株式会社Y1並びにその保証人である上告人Y2及び上告人Y3に対し、貸付け40から42までの貸金の返還を請求する事案である。
3 原審は、次のとおり判断し、上告人株式会社Y1の請求を棄却し、被上告人の請求を一部認容した。
(1) 利息制限法2条は、利息の天引きがされた場合の同法1条1項の規定の適用の仕方、すなわち、受領額を元本として計算した場合の利率が同項の制限に服することを定めているのであるから、法43条1項が一定の要件の下に利息制限法1条1項の規定の適用を排除しているのは、利息の天引きがされた場合の規定である同法2条の規定の適用をも排除する趣旨と解するのが相当である。したがって、利息の天引きについても、債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上でその天引きを承諾したのであれば、法43条1項所定の任意の弁済に当たる。
利息の天引きがされた貸付け1から30までについては、被上告人が上告人株式会社Y1に対して法17条1項所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)及び法18条1項所定の事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)をいずれも交付した事実が認められ、法43条1項の規定の適用要件を満たすものということができる。
(2) 利息の天引きがされていない貸付け31から33までについては、被上告人が上告人株式会社Y1に対して17条書面を交付しており、かつ、各弁済については、被上告人は、上告人株式会社Y1から各弁済を受けた都度、直ちに、18条書面を上告人株式会社Y1に対して交付したものということができる。
したがって、上記各弁済については、法43条1項により有効な利息の債務の弁済とみなされる。
4 しかしながら、原審の上記判断は、いずれも是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 貸金業者との間の金銭消費貸借上の約定に基づき利息の天引きがされた場合における天引利息については、法43条1項の規定の適用はないと解するのが相当である(最高裁平成15年(オ)第386号、同年(受)第390号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号475頁参照)。したがって、貸付け1から30までについては、法43条1項の規定の適用要件を欠くものというべきである。これと異なる原審の前記3(1)の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
(2) 法18条1項は、貸金業者が、貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは、その都度、直ちに、18条書面をその弁済をした者に交付しなければならない旨を定めている。
そして、17条書面の交付の場合とは異なり、18条書面は弁済の都度、直ちに交付することが義務付けられているのであるから、18条書面の交付は弁済の直後にしなければならないものと解すべきである(前掲最高裁平成16年2月20日第二小法廷判決参照)。
前記のとおり、被上告人は、前記各弁済を受けてから7ないし10日以上後に上告人株式会社Y1に対して本件各領収書を交付しているが、これをもって、上記各弁済の直後に18条書面を交付したものとみることはできない(なお、前記事実関係によれば、本件において、上記各弁済について法43条1項の規定の適用を肯定するに足りる特段の事情が存するということはできない。)。したがって、貸付け31から33までについても、法43条1項の規定の適用要件を欠くものというべきである。これと異なる原審の前記3(2)の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
5 以上によれば、上記の各点についての論旨はいずれも理由があり、その余の論旨及び上告理由について判断するまでもなく、原判決中上告人らの敗訴部分は破棄を免れない。そこで、更に審理を尽くさせるため、上記部分につき、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 滝井繁男 裁判官 福田博 裁判官 北川弘治 裁判官 津野修)


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