◆ 平成16年4月12日 東京地裁 平14(ワ)7163号
原告 X1
原告 X2
原告 X3
上記3名訴訟代理人弁護士 ●●
被告 アコム株式会社
同代表者代表取締役 ●●
同訴訟代理人弁護士 ●●
主 文
1 被告は、原告X1に対し、680万8617円及び内572万1009円に対する平成13年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告X1のその余の請求を棄却する。
3 被告は、原告X2に対し、413万0930円及び内332万1698円に対する平成13年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は、原告X3に対し、191万8274円及び内185万0143円に対する平成14年1月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は、被告の負担とする。
6 この判決は、第1項、第3項及び第4項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告X1に対し、684万7435円及び内574万6369円に対する平成13年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 主文第3及び第4項と同旨
第2 事案の概要
本件は、貸金業者(被告)から金員を借り入れてその返済を繰り返していた顧客(原告)3名が、貸金業者に対し、不当利得に基づき過払金の返還請求をするとともに、被告は過払金の利得について取引終了時点で既に悪意であったと主張して終了日から支払済みまで年5分の利息の支払を求める事案であり、原告らが主張する取引経過及び計算結果は別紙1ないし3のとおり、被告が主張する取引経過及び計算結果は別紙4ないし6のとおりである。
1 争いのない事実
(1) 原告X1(以下「原告X1」という。)は、別紙1の記載のうち、昭和63年(1988年)8月2日における95万1277円の借入に関する記載欄以降の各年月日欄記載の日に、被告から各借入金額欄記載の金額を借り入れ、又は、被告に対し各弁済額欄記載の金額を弁済した。
(2) 原告X2(以下「原告X2」という。)は、別紙2の各年月日欄記載の日に、被告から各借入金額欄記載の金額を借り入れ、又は、被告に対し各弁済額欄記載の金額を弁済した。
(3) 原告X3(以下「原告X3」という。)は、別紙3の記載のうち、平成元年(1989年)4月26日以降の各年月日欄記載の日に、被告から各借入金額欄記載の金額を借り入れ、又は、被告に対し各弁済額欄記載の金額を弁済した。
2 争点
(1) 原告X1について、別紙1における昭和61年(1986年)1月22日における5万円の弁済から昭和63年(1988年)8月2日における5万円の弁済までの記載どおりの取引の有無
(原告の主張)
原告X1は、別紙1のとおり、昭和61年1月22日に5万円を弁済したのをはじめ、昭和63年8月2日に5万円を弁済するまで、被告からの借入及び被告への弁済をしている。
(2) 原告X2について、別紙2の記載の初日である昭和63年(1988年)10月20日における、被告から原告X2に対する80万円の貸付有無
(被告の主張)
別紙5のとおり、原告X2は、昭和63年10月20日に、被告から80万円の貸付を受けているので、過払金の計算においては、この80万円も算入すべきである。
(3) 原告X3について、別紙3の記載の初日である平成元年(1989年)3月22日における、被告から原告X3に対する30万円の貸付の有無
(被告の主張)
別紙6のとおり、原告X3は、平成元年3月22日に、被告から30万円の貸付を受けているので、過払金の計算においては、この30万円も算入すべきである。
(4) 被告は民法704条の悪意の受益者に該当するか否か。また、該当するとなればどの時点から悪意の受益者としての効果が発生するか。
(原告の主張)
被告は、貸金業者である以上、貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)43条のみなし弁済についてはその要件が厳格であることを熟知していたはずである。したがって、被告は遅くとも原告らとの各取引最終日までには法律上の原因がないことにつき悪意であった。
(被告の反論)
被告は、従前、原告らからの弁済については貸金業法43条のみなし弁済の要件の立証が可能であると考えていたものである。ところが、被告は、原告らから本訴を提起されてそれまでの原告らとの間における取引内容を調査したところ、貸金業法43条の要件を立証するための手段が十分でないことを認識するに至り、みなし弁済の要件の主張が認められることが困難であると判断した。したがって、結果的に過払金が発生することにはなるが、被告がそれを認識したのは本訴提起後である。
(5) 消滅時効の成否
(被告の主張)
原告X1と被告との取引は、昭和63年8月2日、その当時における債務全額の返済によりいったん終了している。したがって、同日時点で原告X1の被告に対する不当利得返還請求権が仮に存在していたとしても、同日の時点で権利行使が可能であったことになるところ、その10年後である平成10年8月2日が経過している。
被告は、昭和63年8月2日における不当利得返還請求権について、消滅時効を援用する。
(6) 被告が原告らに対し返済すべき不当利得の元金額
(原告の主張)
過払金額は、原告X1については別紙1のとおり684万7435円(残元金及び未精算利息の合計額。以下同様。)、原告X2については別紙2のとおり413万0930円、原告X3については別紙3のとおり191万8274円である。
(被告の反論)
過払金額は、原告X1については別紙4のとおり206万7565円、原告X2については別紙5のとおり172万8973円、原告X3については別紙6のとおり91万1481円である。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)について
(1) 不当利得返還請求訴訟において債権者である原告が主張、立証すべき事実は、〈1〉被告の利得、〈2〉原告の損失、〈3〉因果関係及び〈4〉法律上の原因のないことである(〈4〉については債務者である被告が法律上の原因の発生原因事実を主張、立証すべきとの見解もあるが、利得、損失がいかなる事実関係の下に発生したかという限度においては、返還請求をする側が主張、立証すべきものというべきである。)。そして、そもそも立証責任とは、口頭弁論終結時において特定の要件事実が証拠上真偽不明になった場合にそれが認定されないことの不利益をいずれの当事者に負わせるかという問題であるから、訴訟の過程において、立証責任の所在が一方当事者から他方に移動するということは、理論上あり得ないのであって、ただ単に、証拠の提出状況によって、裁判所の心証形成の程度が変動するために、立証の必要性が変化を来すにすぎない。
本件に即していえば、原告X1が被告に対し法的に債務を負っている以上の金額を返済したために過払分相当の損失を被った事実、同時に被告がこれと同額の利得を得ているという事実は、一貫して原告X1の側に立証責任がある。
(2) 本件の場合、被告が認めていないところの、昭和61年1月22日から昭和63年8月2日までの取引については、弁論の全趣旨により、原告X1の記憶に基づいて主張がなされたものと認められるところ、これを裏付ける証拠は存在しない。
一般論として、貸金業者の保存しているデータは通常の場合真実の取引経過を反映しているものであることからして、もし被告作成にかかる原告X1との取引明細に関する計算書が提出されれば、その記載どおりの取引が存在した可能性が高いと想定されるところ、本件のようにその提出がない場合、顧客である原告X1の単なる記憶に基づいて取引の事実を認定することができるかが問題となるが、現行法規が法定証拠主義を採用していない以上、計算書が提出されていないからといって、取引の事実を認定できないと即断することは相当とはいえない(さもないと、貸金業者が一定期間経過後の計算書をすべて廃棄してしまえば、もはや顧客がその期間における取引についての主張をしてもすべて排斥されてしまうという結果をもたらすことになり、不当である。)。
(3)ア そうすると、原告X1の記憶という手がかりしかない事実の認定方法は、つまるところ、原告X1の記憶をどの程度信用することができるかという問題に帰着するが、この点につき、しょせん顧客の記憶に基づくにすぎない主張であるという不確かさを理由に、認定はできないという考え方もあり得る。
しかしながら、あくまで、事実の認定は、提出された証拠及び弁論の全趣旨を総合的に考慮した上で、行うべきものであって、「単に記憶に基づくだけ」との一事をもって、信用性を否定すべきものではなく、再現された取引内容自体が現実離れしているなど信用性に疑問を抱かせる事情の有無ないしその評価の程度を総合的に考慮して、判断すべきものである。
イ そこで具体的に検討すると、原告X1は、昭和61年1月22日の5万円の弁済をはじめとして、ほぼ1箇月ごとに(空白もあるが。)5万円ずつの弁済を繰り返している旨の事実を主張しているところ、原告X1の生活状況が不安定で一定間隔での返済など到底不可能であることをうかがわせるような事情があれば格別、そのような事情は本件全証拠を総合してもうかがわれないのであって、それ故、原告X1が一定間隔で返済しているという事実自体は、貸金契約の債務者のとる行動としてごく自然なものであるといえる。
他方、原告X1は、昭和61年10月9日に15万円を借り受けたのをはじめとして、その後も被告から金員を借り受け、昭和61年10月9日から昭和63年4月27日まで8回にわたり合計43万円を被告から借り受けたことを認めた主張をしているのであって、前記の弁済の点をも含めると、弁済額について殊更多額の主張をしたり、借受金額について殊更少額の主張をしたりするなど、被告の利得額かつ原告の損失額について不当に多額の主張をしているような事情があれば、原告X1の主張に疑問を抱くことになるが、そのような点は、本件全証拠を総合しても、うかがうことができない。
(4) 以上によれば、別紙1における昭和61年1月22日から昭和63年8月2日までの取引の事実に関する原告X1の記憶は、信用できるというべきであり、その結果、この期間内における取引の事実は、原告X1の主張どおり、これを認定することができる。
2 争点(2)について
(1) 乙2によれば、被告の顧客管理に関するデータには、原告X2については昭和63年10月20日に80万円の貸付がなされた形になっていることが認められるが、他方、甲8によれば、原告X2の認識としては、同日に被告から80万円の貸付を受けたわけではなく、昭和61年1月14日に被告から20万円の貸付を受けたのを皮切りに被告との取引を続けた結果、昭和63年10月20日の時点で借入金残額が80万円にまで広がったというものであることが認められる。
(2) 甲8はあくまで原告X2の記憶に基づく記載であって、被告内部のデータとしてそれが残っているわけではないが、原告X1作成に係る甲7及び原告X1の記憶に基づく取引再現について言及したのと同様、原告X2の記憶が不正確であることをうかがわせるような証拠が提出されていないことに照らせば、昭和63年10月20日に80万円の貸付があったわけではなく、むしろ乙2によって、同日現在における残元金が80万円であったことが示されているにすぎないと認めるのが相当である。
しかしながら、この80万円という数値は、そもそも被告の資料によるものであるところ、これが、利息制限法の範囲内の利息割合に基づいて同日より前の取引についての計算を施した結果の数値であるか、それとも、みなし弁済が認められた場合の利息割合に基づいて同日より前の取引についての計算を施した結果の数値であるかが明らかでなく、むしろ、貸金業者である被告の内部資料に基づくものであることからすれば、後者の可能性が高いというべきであるが、そうであれば、同日より前の取引について、みなし弁済の適用を受けるための要件が備わっていたことを、被告において明らかにする必要があるというべきであるところ、本件全証拠を総合しても、その点に関する事情はまったくうかがうことができない(なお、これは、不当利得返還請求の要件事実について被告に立証責任を負わせたわけではなく、あくまで原告が立証責任を負うべき事実について、一定のレベルまで原告の主張が認められる程度に証拠がそろったために、それを覆す必要が被告の側に生じた、すなわち、現実の反証の必要性が被告に生じた結果にすぎないことを付言する。)。
(3) 以上によれば、原告X2に対する昭和63年10月20日における80万円の貸付の事実も、あるいはまた同日における原告X2の80万円の債務負担の効果(これは要件事実ではなく、あくまでも法律効果であるので、当事者とりわけ被告から具体的事実の主張がなされなくとも、裁判所がしんしゃくすることができる。)も、算入することはできない。


コメント