◆ 平成16年4月15日 東京地裁 平15(ワ)20887号
原告 X
同訴訟代理人弁護士 ●●
被告 GEコンシューマー・クレジット有限会社承継人 GEコンシューマー・ファイナンス株式会社
同代表者代表取締役 ●●
同訴訟代理人弁護士 ●●
同訴訟復代理人弁護士 ●●
主 文
1 被告は、原告に対し、47万5189円並びに内金34万1081円に対する平成15年5月7日から支払済みまで及び内金13万4108円に対する平成15年9月20日から支払済みまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを5分し、その3を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項及び第3項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は、原告に対し、121万8383円並びに内金101万8383円に対する平成15年5月7日から支払済みまで及び内金20万円に対する平成15年9月20日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、貸金業者から金員を借り入れてその返済を繰り返していた顧客が、貸金業者に対し、不当利得に基づき過払金の返還請求をするとともに、同貸金業者は過払金の利得について取引終了時点で既に悪意であったと主張して同貸金業者の承継人である被告に対し取引終了日の翌日から支払済みまで年5分の割合による利息(民法704条)の支払を求め、また、同貸金業者は原告からの取引経過開示要求に応じなかったものであり、これにより原告は弁護士に訴訟手続を委任することを余儀なくされ、かつ、精神的損害を被ったと主張して、被告に対し、不法行為に基づき、弁護士費用及び慰謝料並びにこれに対する不法行為後の日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実
(1) 原告は、別紙2各年月日欄記載の日に、コーエークレジット株式会社(平成12年9月20日に承継前被告であったGEコンシューマー・クレジット有限会社に吸収合併された。以下では、コーエークレジット株式会社及びGEコンシューマー・クレジット有限会社を併せて「承継前会社」という。)から各貸付金額欄記載の金額を借り入れ、又は、承継前会社に対し各支払済の金額欄記載の金額を弁済した(争いがない。)。
原告と承継前会社との間においては、利息割合につき年29.2パーセント、うるう年の利息計算は年366日とする旨の合意があった(乙1)。
(2) 原告は、原告訴訟代理人に対し債務整理を依頼し、同代理人は、平成15年5月28日、承継前会社に対し債務整理受任通知を送付するとともに、原告と承継前会社との間の取引経過(貸付、返済の金額、年月日)の開示を求めた(争いがない。)。
これに対し、承継前会社は、開示に応じなかった(弁論の全趣旨)。
(3) 原告訴訟代理人は、平成15年5月28日以降も、同年6月6日から同年9月10日まで、その後合計16回(前記の同年5月28日における開示要求は含まない。)にわたり、承継前会社に対し、取引経過の開示を求め続けた(争いがない。)。
承継前会社は、この間、平成15年8月18日付けで、原告の承継前会社に対する平成9年9月30日時点における元金残高がいったん0円になった後の、同年10月8日における2万円の借入れから平成15年5月6日における5000円の借入れまでの、合計183万3014円の借入れ及び合計215万2600円の返済に関する取引経過を開示した(甲1)。
(4) 原告は、自己の記憶に基づいて承継前会社との取引経過について再現を試み、それに基づき利息制限法の範囲内の利息割合に従って弁済金の利息への充当をした計算を施した結果、101万8383円の過払金が生じているとして(具体的内容及び計算結果は別紙1のとおり。)、平成15年9月11日、承継前会社に対し、前記金額並びに不法行為に基づく慰謝料10万円及び弁護士費用10万円を合算した121万8383円の支払を求めて、本訴を提起し、本訴状は、同月19日、承継前会社に送達された(当裁判所に顕著。)。
(5) 承継前会社は、平成15年10月1日、ゼネラル・エレクトリック・キャピタル・コンシューマー・ファイナンス株式会社に吸収合併され、同社は、同日、商号変更をして被告となった(弁論の全趣旨)。
(6) 被告は、本訴の第2回口頭弁論期日(平成15年12月18日)において、平成8年3月1日以降における原告と承継前会社との間の取引を記載した計算書(乙5。別紙2と同内容。)を、書証として提出し、開示済みの平成9年10月8日より前の取引の一部を開示した。
(7) 原告は、承継前会社との取引に関し、平成8年3月1日以降については別紙2のとおりでよい旨主張を改めるとともに、同日より前のものについては本件の対象外とする(同日より前の取引に関する主張は撤回する)旨の意向を示した。
(8) 原被告間においては、利息計算について、借入初日は算入しないとの合意がある(第4回口頭弁論期日において争いがない旨確認した。)。
2 争点
(1) 被告が原告に対し返済すべき不当利得の元金額
(原告の主張)
別紙1のとおり、過払金額は101万8383円である(原告は、本訴提起時においては原告と承継前会社との間における取引経過を別紙1のとおり主張し、その後、取引経過については別紙2のとおりに改めて、平成8年3月1日より前の取引についての主張を撤回したものであるが、主張の変更の際に、請求の趣旨の変更は行わなかったため、請求金額は本訴提起時のままとなっている。)。
(被告の反論)
別紙2のとおり、過払金額は34万1077円である。
(2) 承継前会社は、悪意の受益者(民法704条)といえるか。
(原告の主張)
原告は、別紙1の計算においては過払金が発生している期間において過払金元金に対する利息を0として計算しており、この期間に関してはあえて悪意の主張はしないが、承継前会社は、遅くとも原告と承継前会社との間の取引終了日である平成15年5月6日の翌日には過払金の発生について悪意であった。
(被告の反論)
承継前会社は、過払いが生じていることにつき一貫して悪意ではなかった。
(3) 取引経過に関する書類を開示しなかったことは不法行為の要件である違法性を有する行為に該当するか。
(原告の主張)
承継前会社は、原告が訴訟代理人を通じて取引経過の開示を求めたにもかかわらず、前記のとおり、これを拒否し続けたものであるが、一般に、貸金業者は、顧客が多重債務による支払不能の状況に陥り、弁護士に債務整理を委任して経済的な更生を図ろうとしている際には、これに協力すべき義務があり、債務整理に協力せず取引経過の開示を拒むのは、社会的相当性を欠いた違法な行為である。
(被告の反論)
貸金業法を含め、貸金業者の取引経過開示義務を定めた規定は存在しない。したがって、貸金業者が開示要求に従わないからといって、その行為が違法性を帯びることにはならない。
(4) 不法行為が成立するとした場合の損害額
(原告の主張)
ア 原告は、承継前会社からの不当な取引経過開示拒絶を受けた上、これにより任意債務整理に対する妨害を受けたことから、弁護士である原告訴訟代理人に対し10万円の報酬を支払う旨約諾した上で本訴提起を余儀なくされたものであるところ、原告は金融関係とは無縁の者であるのに対し、承継前会社は貸金業者であることに照らせば、弁護士に委任せずに本訴を提起することは不可能であった。よって、弁護士報酬10万円の支出は、承継前会社による取引経過開示拒絶と相当因果関係にある損害といえる。
イ 原告は、承継前会社から取引経過開示拒絶及びこれによる任意債務整理の妨害を受けたことにより、多大な精神的損害を被ったものであって、これを金銭によって慰謝するには、10万円が相当である。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)について
(1) 当裁判所の計算結果は、別紙3のとおりである。
(2)ア 利息割合については、当初の借入金額である50万円を基準に利息制限法に従い年18パーセントとした。
イ 過払金発生期間における利息は、原告が別紙1において利息割合を0としていることから、実際に承継前会社が過払金発生につき悪意であったか否かを問題とすることなく、0として計算した。
うるう年における利息の計算は、原被告ともそれぞれ別紙1及び2において、これを365日としているが(平成12年1月27日の翌日から同年2月29日までの33日間における利息額参照。)、乙1によりこれを366日とする旨の合意が認められるので(前提事実(1)参照。)、この期間については、年日数を366日として計算すべきものであるから、これに従った。
2 争点(2)について
承継前会社を含め、貸金業者は一般にみなし弁済の要件が厳格であることを熟知しているはずであること、原告が承継前会社の悪意を主張している平成15年5月7日の時点では、既に貸金業者に対する過払いが一部の弁護士によって取り上げられるなどして社会問題となりつつあったこと(公知の事実)に照らすと、承継前会社においても、遅くとも同日の時点では、原告を含め全顧客についてみなし弁済の要件が具備されているかどうか疑問を抱いて当然といった状況にあっても不思議ではなく、承継前会社がたまたま原告についてみなし弁済の要件が満たされていたと信ずるに足りる事情が証拠上うかがうことができればともかく、そのような事情が全くうかがえない以上、承継前会社は、原告について、遅くとも平成15年5月7日以降、みなし弁済の要件が具備されていない可能性について未必的には認識していたものと認めるのが相当である。
その結果、被告は、同日以降、過払金元金34万1081円に年5分の利息(民法704条にいう「利息」)を付す義務を負うべきものといえる。
3 争点(3)について
(1)ア まず、貸金業者である承継前会社が顧客である原告に対し、原告の要求に応じて取引経過を開示する義務があるか否かについて検討する。
イ 借主から貸主に対し過払金返還請求をなすに当たっては、借主の側において、過払金が発生していることの要件事実すなわち過去の借入及び返済の金額、年月日等を主張、立証しなければならないのが原則である。
しかしながら、貸金業者は、全顧客との取引経過に関する事実をコンピューターで一元的に管理しているのに対し、顧客の側は、通常の場合利息制限法及び貸金業法についての専門的知識に乏しい上に、貸金業者から交付された書面等を熟読、理解することなく廃棄してしまい、後日、多重債務を抱えるに至って弁護士にその整理を委任した段階においてはじめて前記法規の存在及び貸金業者に対する過払いの事実を知り、その返還を請求しようと決意したものの、既にその立証に必要な書面等を廃棄してしまっているというのが、通常である。このように、貸金業者と顧客とを比較すると、経済力、情報力といった諸点について、前者が後者よりも著しく優越しているとの事情は、開示義務の存否において考慮しなければならない。
ウ 多重債務者の債務整理を行うに当たっては、当然のことながら、債務者の側で現在負っている債務の内容のすべてを確定した上で、債権者らに平等な分配を実施するよう配慮しなければならないが、それを実現するためには、債務者が把握、確定し切れていない債務の内容を知るために、各債権者から取引経過の全体についての開示を受けることが必要となる。他方、貸金業者の立場としては、前記のとおり顧客に関するデータを管理しており、顧客の要求に応じて開示することは、容易である。
エ ところで、貸金業法19条は、貸金業者に対し、内閣府令で定めるところにより、その営業所又は事務所ごとに、その業務に関する帳簿を備え、債務者ごとに貸付の契約について契約年月日、貸付の金額、受領金額その他内閣府令で定める事項を記載し、これを保存することを求めているのであり、そして、同法に関しては、金融庁による「事務ガイドライン(3-2-3(1)「債務者、保証人その他の債務の弁済を行おうとする者から、帳簿の記載事項のうち、当該弁済に係る債務の内容について開示を求められたときに協力すること」)が定められていることもまた、公知の事実であるところ、これらの規定及び通達は、ただちに貸金業者に対し、顧客から請求があった場合における取引経過開示義務を定めているものではないが、いずれもその趣旨が、貸金業者に対し、利息制限法及び貸金業法43条に従った債権管理を求めて顧客(借主)の利益を保護しようとするものであることに照らすと、その趣旨は貸金業者と顧客との契約関係に基づく具体的権利義務関係を理解する上において、その解釈の基準として重視すべきものということができ、結論として、少なくとも、多重債務に陥り債務整理の必要に迫られている顧客が、債務整理を受任した弁護士を通じて貸金業者に対し取引経過の開示を求めてきた場合には、貸金業者の側にこれを拒絶する正当な理由がある場合でない限り、貸金業者にはこれに応じるべき信義則上の義務があるというべきであって、この要求を正当な理由なく拒絶した場合には、不法行為が成立すると解するのが相当である。
(2) 本件の場合、貸金業者である承継前会社の側に、原告からの取引経過開示要求を拒絶することの正当な理由に該当する事実の主張も、またその存在をうかがわせるような事情又は証拠も、全くないのであるから、被告は、承継前会社の取引経過開示拒否について、不法行為責任を負うことになる。
4 争点(4)について
(1) 原告が、承継前会社の開示拒否によって弁護士に訴訟手続を委任せざるを得なくなったことは明らかに認定し得るところ、原告が訴訟代理人に支払うべき弁護士費用の額のうち、過払金請求認容額の1割相当額が、承継前会社の開示拒否との相当因果関係の範囲内ということがいえるので、3万4108円の限度で認容するのが相当である。
(2) 原告が、承継前会社の開示拒否によって被った精神的損害を負わされたことは、明らかに認定し得るところ、その精神的損害を金銭によって慰謝するには、認容金額に照らすと、10万円が相当と判断される。
5 結論
以上によれば、原告の本訴請求は、不当利得として34万1081円及びこれに対する平成15年5月7日から支払済みまで民法704条の利息としての年5分の割合による金員並びに不法行為に基づく損害賠償(弁護士費用及び慰謝料)として13万4108円及びこれに対する平成15年9月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の各支払を求める限度で、理由がある。
(裁判官 柴崎哲夫)
別紙1~3 〈省略〉


コメント