◆ 平成16年1月13日 東京地裁 平14(ワ)24475号の1
原告 ●●
同訴訟代理人弁護士 ●●
被告 株式会社武富士
同代表者代表取締役 ●●
同訴訟代理人弁護士 ●●
同 ●●
主 文
1 被告は、原告に対し、145万1302円及びこれに対する平成14年11月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
被告は、原告に対し、187万5938円及びうち173万3649円に対する平成14年7月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
原告と貸金業者である被告の金銭消費貸借契約【本件取引】に基づく原告の弁済が、利息制限法所定の制限利率に引き直すと過払いであるとして、原告が被告に対し、不当利得の返還を求め、被告が「悪意の受益者」であったとしてその利息の支払いをも求める事案である。
1 争いのない事実
(1) 被告は、本件貸付当時、無担保・小口の貸付を主要な業務内容とする貸金業の規制等に関する法律【貸金業規制法】所定の貸金業者である。
(2) 被告は、原告に対し、別紙利息計算表貸付返済金額欄に正数で表示した金額の貸付を行い、原告は、被告に対し、同記載の負数で表示した金額の返済をした。原告は、銀行振込による返済をしたことはなかった。
(3) 被告は、利息制限法所定の利率を超える利息と知りながら前記返済を受けた。
2 争点
被告が「悪意の受益者」か
(原告)
(1) 被告が、昭和58年1月28日に、原告と取引を開始するに当たって作成、交付したという契約書面は、どのような書面が作成されたのか、それが本当に交付されたのか不明である。
(2) 被告が貸付をする際には、おおむね契約書面を発行するが、本件の場合の契約書面は明らかではない。
(3) 店頭又はATMを利用した返済に際しては、被告は、おおむね受取証書を発行することが多いがその記載内容は検証できない。
(4) 被告が発行したという受取証書はおよそ実体関係とかけ離れたデタラメな記載であった。
(5) 被告は、過払いについて悪意であった。
(6) 争いのない事実記載の取引経過(貸付・返済の各金額・年月日)につき、利息制限法所定の制限利率に引き直して計算すると、原告は、被告に対し、借入元本を返済した後、なおこれを173万3649円超えた支払いをし、これによって、被告は、法律上の原因なく、同額の利得をした。
(7) よって、原告は、被告に対し、不当利得返還請求権に基づいて過払金173万3649円、これに対する確定利息14万2289円及び前記過払い金に対する最後の取引の翌日である平成14年7月15日から支払済みまで年5分の割合による利息金の支払いを求める。
(被告)
被告は、原告に対し、貸金業規制法所定の契約書面【17条書面】及び受取証書【18条書面】を交付しており、みなし弁済が成立すると認識していた。
被告は、過払い金の発生につき悪意ではなく、善意である。
(1) 17条書面
被告は、原告に対し、包括契約書面と個別契約書面を交付していた。
ア 包括契約書面
被告は、原告に対し、平成2年4月13日の包括契約の際、「リボルビング限度額契約証書」を、平成9年5月7日の包括契約の際には「カードローン契約証書」を交付した。
なお、被告は、昭和58年1月28日の包括契約の際、被告に対し、「リボルビング限度額契約証書」と同じフォームの包括契約書面を交付した。
イ 個別契約書面
(ア) 店頭取引の場合
被告は、同取引の当初から、原告に対し、個別契約の都度、「領収証兼残高確認書」あるいは「領収証兼ご利用明細書」を交付していた。
(イ) ATM取引の場合
被告は、同取引の当初から、原告に対し、個別契約の都度、「ATMご利用明細書(領収証)」を交付していた。
(2) 18条書面
ア 店頭取引の場合
被告は、原告から弁済を受けたとき、原告に対し、「領収証兼残高確認書」又は「領収証兼ご利用明細書」を交付していた。
イ ATM取引の場合
被告は、原告から弁済を受けたとき、原告坂本に対し「ATMご利用明細書(領収証)」を交付していた。
第3 当裁判所の判断
1 悪意の受益者
悪意の受益者とは「法律上の原因がないことを知りながら利得した者」(最高裁判所昭和37年6月19日第三小法廷判決裁集民61号251頁)であり、本件についていえば、利息制限法所定の利率を超過した利息を、超過した事実を知りながら取得すれば、原則として悪意の受益者に該当する。
しかしながら超過の事実と両立し得るみなし弁済の事実が存在するものと認識していた場合、悪意の受益者には該らない。端的にいえば、客観的にはみなし弁済の事実が存在せず、認識に錯誤があったとしても、その認識がある以上は悪意とはいえない。
もっとも利得者が認識した事実が、法律上はみなし弁済を構成する事実ではないのに、みなし弁済が成立すると信じた(法的判断を誤った)にすぎない場合は、利得者は結局、「法律上の原因がない」事実を認識しているのであるから、悪意の受益者に該当する。
2 貸金業規制法施行以前の貸付について
原告被告間の貸付は、貸金業規制法施行(昭和58年11月1日)以前の同年1月28日に開始され、継続されているところ、貸金業規制法施行前につき同法の適用を前提とした被告の主張はそれ自体失当である(貸金業規制法附則6条)。
貸金業規制法施行以前の貸付につき、利息制限法所定の制限利率を超えて弁済を受領した部分が被告の不当利得となる(最高裁判所昭和43年11月13日大法廷判決民集第22巻12号2526頁)。
被告は、利息制限法所定の利率の超過を認識していたから、前記不当利得について、悪意の受益者となる。
3 貸金業規制法施行以降の貸付について(1)
平成12年の事務ガイドライン改正前に、被告が個別取引の際交付したとする領収証兼残高確認書等(乙イ2の1から2の3まで)には、貸金業規制法17条の求める記載事項が、同書面自体に記載されているとはいえない。包括契約書面の主張のない平成2年4月13日よりも前の取引については(昭和58年1月28日の主張が失当であることは前記2)、被告は悪意の受益者であるというほかはない。
4 貸金業規制法施行以降の貸付について(2)
(1) 争いのない事実、証拠(乙イ1から6〔いずれも枝番を含む。〕)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告に対し、平成2年4月13日、「リボルビング限度額契約証書」、平成9年5月7日、「カードローン契約証書兼告知書」を各交付したこと、前者には、「貸金業者の住所」(貸金業規制法17条1項1号。取扱店の住所の記載がある。)が欠け、両書面には「貸付の金額」(同項3号)、「貸金業者が受け取る書面の内容」(同項6号)の記載が欠けているほかは、同法17条所定の記載があること、被告の作成する領収証兼残高確認書、領収証兼ご利用明細書、ATMご利用明細書(領収証)【総称して、領収証】には、貸付金額の記載があるほか、平成4年10月7日以降の領収証には当事者間の契約に基づく利息、賠償額の予定に基づく賠償金及び元本への充当額の記載その他同法18条所定の記載があること(それより前の領収証には利息と賠償金との区別がないこと)、被告は、貸金業規制法所定の貸金業者であって、みなし弁済による高利を享受すること事業の目途とすること、個別契約及び弁済に際し、店頭で従業員が又はATMにより領収証を交付する例であったこと、ATMによる領収証の交付は少なくとも0.014パーセントの障害があること、以上の事実を認めることができる。
(2) 貸金業規制法17条及び同法18条の立法趣旨は、主に、同法43条によりみなし弁済を認める政策を採り、貸主に対し、借主が支払いを拒み、又は不当利得返還請求をする等の主張をする際の証拠となる書面を交付するインセンティブとする意味を持たせ、このような書面の交付の請求すらままならなかった借主の地位を考慮し、不明瞭であった高利の貸金関係を証拠上明らかにすることにある。
したがって、被告の契約書面及び領収証を一体と考え、これをもって17条書面とすることは可能である。契約書面に欠けている(包括書面だから性質上当然であるが)貸付金額は、領収証に記載がある。乙イ1の1には本店所在地ではなく、取扱店の住所の記載があるに過ぎないが、債務者が債権者を追及する契機とはなり、貸金業者が受け取る書面の内容の記載が欠けていることを考慮しても、17条書面としての効力を失うまでの瑕疵とは認められない。しかしながら平成4年10月7日(乙イ2の2)よりも前に作成された領収証により、当事者間の契約に基づく利息、賠償額の予定に基づく賠償金が区別され、弁済の充当関係を明らかにされていたと認めることはできないから、借り換え時に17条書面としての要件を欠いていたことになる。
そうすると平成4年10月7日よりも前の弁済については、17条書面、18条書面の要件を満足していたとは認められないから、仮に被告が法的には適式と誤解していたとしても、被告は「悪意の受益者」であるといわざるを得ない。
(3) 原告は、被告作成の領収証が18条の要件に該当しないでたらめのものであるというのであるが、18条書面は、前記2の立法趣旨に照らせば、当事者間の契約に基づき、弁済、充当がなされた事実を明らかにする書面であって、当事者間の契約が利息制限法に従ったものではないときにも、同法所定の利率に引き直した利息等の充当関係の記載が求められるわけではないから、平成4年10月7日以降の領収証を18条書面と認めることはできる。
(4) 原告は、店頭取引については、人間の行うことであるから過誤があると主張するところ、その可能性も確かに否定できず、又、ATMについても前記のとおり0.014パーセントの障害があることが認められるものの、他方、被告が貸金業規制法所定の貸金業者であり、その事業の目途がみなし弁済による高利を享受することにあって、借主に対し、前記の書面を交付する例であったことが認められることからすれば、過誤による書面の不交付があるとしても、被告としては17条書面及び18条書面を交付したものと認識していたことを認めることができる。そのことは、本件取引に関し交付すべき時期ころに原告から不交付について異議が出ていたという事情も見当たらないこととも矛盾がない。
そうすると平成4年10月7日以降の不当利得については、被告が悪意の受益者であるとすることはできない。
「悪意の受益」額は、同日、21万4573円であり、その後の貸付の弁済に順次充当されるから、同年12月3日に13万6052円、平成5年1月29日に8万7112円となり、同年3月18日に0円となった。
(5) したがって、被告は、別紙利息計算表の残元本欄に負数で表示した金額を法律上の原因なく利得したことになる。
5 以上によれば、原告の請求は、主文の限度で理由がある。
(裁判官 棚橋哲夫)
(別紙)利息計算表〈省略〉


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