(イ) 被告の主張
借入マスター契約(乙2の12から14まで)は、個別取引に先立ち、原被告間の取引関係について一般的に規定した基本契約である。貸金業法17条所定の要件との関係では、借用証書に貸金業法17条所定の事項がすべて記載されており、借用証書の記載のみで契約内容を確定することができるので、借用証書が17条書面に該当するものである。
(2) 受取証書(貸金業法18条の書面)について
ア 受取証書(18条書面)の交付の有無について
(ア) 原告の主張
平成7年5月19日付け領収書兼残高確認書(乙3の5)については、原告の署名がなく、実際に原告へ交付されたものではない。
(イ) 被告の主張
原告が被告に対し本件各返済を行ったとき、被告は、貸金業法43条1項2号に基づき、直ちに、同法18条1項各号に掲げる事項を記載した書面(以下、「受取証書」又は「18条書面」という。)を、原告に対して交付した(乙3の1から乙17の3まで)。これによって、原告は各弁済について元本と利息への充当額を知りうるのであるから、貸金業法18条所定の書面を交付したものである。
イ 受領文言の記載の有無について
(ア) 原告の主張
乙第13号証の10から乙第17号証の3までの領収書兼残高確認書については、受領文言(施行規則15条1項1号)を欠いている。
(イ) 被告の主張
乙第13号証の10から乙第17号証の3の領収書兼残高確認書の受領文言については、その裏面(乙23の1から27の3)に記載がある。
ウ 債権者の表示の記載の適否(代理受領文言の記載の要否)について
(ア) 原告の主張
a 仮に、被告が債権者であるとすれば、乙第14号証の1から第16号証の7までの領収書兼残高確認書については、エイワキャピタルを債権者と表示しているため、18条書面の債権者の表示として不適当である。
b 仮に、エイワキャピタルが債権者であるとすれば、同社によって発行されたものとはいえない。被告は、貸金業法は代理人を使用して受取証書を作成することを禁止しておらず、代理人として受取証書を作成した旨主張するが、その場合においても、代理人が受取証書を作成したことが明らかにされなければならない。そうであるところ、返済金の受取人は「エイワキャピタル」ではなく被告と表示されているから、正しく表示されていないことが明白である。すなわち領収書の発行者イコール領収者であるが、右上に表示された「株式会社エイワ」は領収書の発行主体であるから、被告が受取人と表示されたものと解される。
(イ) 被告の主張
被告はエイワキャピタルとのサービサー契約に基づいて、領収書兼残高確認書の作成・交付業務を代行しているが、貸金業法は受取証書の作成及び交付について代理人を使用することを禁止してはいないし、特段原告に不利益を与えるものではないので、上記代行について18条書面の該当性に欠けるところはない。
エ 受領額の記載の適否(借換え時の現実の利息授受の有無)について
(ア) 原告の主張
被告は借換えの際、便宜的な領収書兼残高確認書を作成しているが、借換え時に従前の貸付けに関する利息の現実の授受がなかった。したがって、利息の支払は、現実の取引ではなく、その点に関する記載は18条書面としての要件を欠く。その具体例は、乙第3号証の6、第4号証の7、第5号証の7、第6号証の6、第7号証の7、第8号証の7、第9号証の7、第10号証の7、第11号証の7、第12号証の7、第13号証の11、第14号証の6、第15号証の7及び第16号証の6である。
また、乙第2号証の1を除くすべての領収書兼残高確認書について、一度でもみなし弁済が成り立たないとすれば、その後の18条書面の元利金に関する記載は実体と異なることになり、このような内容が記載された書面は貸金業法18条の要件を欠く。
(イ) 被告の主張
前記のとおり借換え時に従前の貸付けに関する利息の現実の授受があったから、18条書面に当たる。
(3) 超過利息支払の「任意性」について
ア 原告の主張
原告の支払はいずれも借換えの手続をしなければ追加借入れをすることができないという面があるから、支払の任意性を欠くものである。
イ 被告の主張
原告は、被告に対し、各弁済の際、各利息にあたる金員を、いずれも利息として任意に支払ったものである。
(4) 取引の一個性の有無(過払金の後の新規貸付金への充当の可否)について
ア 原告の主張
本件各貸付けの内容からすれば一連の1個の取引と解されるべきであるから、過払金が発生したときは後の新たな貸付けの一部に充当し、これを控除した金額が貸し付けられたものとして計算すべきである。
イ 被告の主張
本件においては、すべての返済について貸金業法第43条のみなし弁済が成立するので、本件各貸付けが個別か1個かは問題にならないが、あえて述べると、本件各貸付けは、その都度、原告からの借入申込みに基づいて、原被告間で契約書面が作成されているのであるから(乙2の1ないし15、乙18、乙19)、個別の取引である。したがって、過払金は、後の新規貸付金の返済には充当されない。
(5) 被告が過払金について悪意受益者か否かについて
ア 原告の主張
被告は、悪意の受益者であるから、各過払金発生時から各過払金の支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息金(別紙「原告計算表」の「未払過払利息」欄記載の確定利息、その後の悪意受益者の利息)の支払義務がある。
イ 被告の主張
仮に過払金が発生したとしても、被告は、本件各返済について、すべてみなし弁済が成立するものと認識しており、過払金であるとの認識がなかったので、悪意の受益者には当たらない。
第3 争点に対する判断
1 契約書面(貸金業法17条の書面)の交付について
(1) 借主の記載の有無について
ア 証拠(乙2の1から15)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実を認めることができる。
(ア) 被告は、本件各貸付けの際、貸金業法43条1項1号に基づき、同法17条1項各号に掲げる事項についてその契約の内容を明らかにする17条書面を相手方である原告に対し交付した(乙2の1から15まで)。
(イ) 上記の17条書面の書式は3枚複写式になっており、1枚目が借用証書正本、2枚目が施行規則16条3項に基づく書面、3枚目が借主に交付する借主用控えであった。1枚目の借用証書正本は、被告が貸付けの証拠として貸付時から貸金の完済時まで保持し、貸金の完済時に借主に返還した。2枚目の施行規則16条3項に基づく書面は、当該貸金が完済になった後も、被告が商法上及び貸金業法上の帳簿保存義務に基づき、保存している。3枚目の借主用控えは、貸金業法17条に基づき、貸付時に「契約の内容を明らかにする書面」として借主に交付した。被告保管の施行規則16条3項に基づく書面(乙2の1から15まで)の借主欄に借主の署名が記載されていないのは、2枚目には借主欄の記載が複写されないようになっていたためであって、1枚目の借用証書正本の借主欄には筆記具により借主の署名がされている。
(ウ) 被告保管の施行規則16条3項に基づく書面(3枚複写式の2枚目。乙2の1から14までの原本の相当数)の借主欄にはペン圧による借主名の痕跡が残っていることからすると、原告に交付された3枚目の借主用控え(黄色・17条書面)にも、すべて貸金業法17条の要件としての借主の署名が複写されるようになっていたものと推認することができる。
イ 上記認定事実によれば、原告へ交付された17条書面について「借主」の記載を欠く旨の原告の主張は理由がない。
(2) 償還表の交付の欠如について
ア 被告は、「貸金業法17条所定の『返済の方式』(第5号)、『返済期間及び返済回数』(第6号)はいずれも借用証書に記載されており(乙2の1から15までの第1条)、借用証書のみで同法17条所定の要件を充たすものであるから、償還表の交付の有無は17条書面の成否とは無関係である。」旨主張するが、契約書面中に各回の支払金額を「別紙償還表記載のとおりとします。」と明記している以上、別紙償還表も契約内容に含まれるから、これを確認しなければ、借主としては返済期間、返済回数及び返済額を確定することができない。したがって、被告は、償還表を原告に交付しなければ、貸金業法17条所定の「返済の方式」(第5号)、「返済期間及び返済回数」(第6号)を記載した契約書面を交付したことにならない。これに反する被告の主張は採用することができない。
イ そこで、被告が原告に対して、各貸付時に、弁済予定日、弁済予定額並びに各弁済の元本及び利息への充当額を記載した償還表を交付したかどうかについて判断する。
(ア) まず、平成13年10月12日付けの32万円貸付け(本件第14貸付け。乙21)と、平成14年4月11日付けの30万円貸付け(本件第15貸付け。乙22)については、償還表が被告から提出されているから、その交付の事実を認めることができる。
(イ) 次に、本件第5貸付けから第11貸付け(乙2の5から11まで)には「本証書の写し及び償還表を正に受領しました」と、本件第12貸付け(乙2の12)には「本証書の写し、償還表及び借入マスター契約書の写しを正に受領しました」と、それぞれ記載され、その下に原告が署名しているから、本件第5貸付けから第12貸付けまで(乙2の5から12まで)については、償還表が原告へ交付されたものであると認めることができる。
(ウ) これに対し、本件第1から第4及び第13貸付けについては、被告が原告に対して償還表を交付した事実を認めることができず、17条書面交付の要件を欠く。
(3) 借換え時の従前貸付けの債務の記載について
ア 借換え時の旧債務の元本及び利息の記載の必要性について
被告は、「現行の貸金業の規制等に関する法律施行規則第13条1項1号カの規定は、貸金業の規制等に関する法律施行規則の一部を改正する省令(平成10年大蔵省令第88号)により新設された規定であり、この省令は、平成10年6月10日から施行されたものであるから、同日よりも前の貸付けについては適用されず、借換えの場合の旧債務の元本及び利息を記載する必要はない。」旨主張する。
しかし、借主が旧債務額を超える金銭の貸付けを受け、即時その貸金の中から旧債務金の返済をするという借換え処理がされた場合、その貸付契約は、旧債務元利金を目的とする準消費貸借契約と、新たに貸し付けた企額についての消費貸借契約との混合契約の性質を有するものと解され、旧債務の元利金額を具体的に特定しなければ、上記混合契約の性質を有する借換え契約の貸付金額を明示したことにはならないものというべきである。したがって、上記施行規則の改正の前後にかかわらず、貸金業法17条1項3号の「貸付けの金額」の内容として、旧債務の元本及び利息を記載することが必要であるものと解される。これと異なる被告の上記主張は採用することができない。
イ 借換え時の既発生利息の弁済について
(ア) 上記のように借換え時にかかる旧債務としてはその既発生利息分と、残元金分とを合わせたものを借換え時の旧債務として表示する必要があるにもかかわらず、被告は、乙第2号証の1を除くすべての契約書面について、旧債務の既発生利息分を記載していない。すなわち、被告は借換え時に既発生利息及び一部元本につき入金があったものとしていったん処理し(例えば、乙3の6)、一部入金後の減額された残元金債務が借換え貸付けにより全額返済入金されたものとする処理をしている(例えば、乙3の7)。そして、第一段階としての入金処理分(利息入金分と一部元本入金分)とその処理後の残元金分の合算額を借換え貸付額から差し引いた金額のみを現実に原告へ交付している。
(イ) そこで、上記処理の適否を判断する前提として、現実に旧債務の利息金の支払(現金の授受)がされたかどうかについて判断するに、次のa及びbの各理由からすると、本件各貸付けのうち、本件第2から第4、第6から第13貸付けについては、既発生利息の支払が単なる書面上のものであり、現実の支払がなかったものと認めるのが相当である。
a 本件第2から4まで、第6から第13貸付けについては、借換え時の利息支払の書面につき「お預かり」欄に預り金額の記載がない(乙3の6、4の7、5の7、7の7、8の7、9の7、10の7、11の7、12の7、13の11、14の6)。なお、上記借換え時以外の利息支払時には、その領収書兼残高確認書の「お預かり」欄の大半に預り金額の記載がある(乙3の1等)。
b また、別件過払金返還請求訴訟事件(当庁平成15年(ワ)第2045号不当利得返還請求事件)の被告訴訟代理人は、同事件において、「受領金額が欄外に記載されていたり、入金処理をした担当者と借り換え貸付処理した担当者が異なる場合は、第一段階として利用者が持参して一部返済したものである。」旨を指摘した上で、「その外については、各切替日の弁済は原告(利用者)の所持金からではなく新規貸付金の一部をもって相殺しているものである。」旨準備書面(甲1)で述べている。これを本件についてみると、借換え時の領収書兼残高確認書(受取証書)の欄外には記載がなく、しかも既発生利息の弁済処理をした担当者と、借換え貸付けによる残元金債務の全額返済処理をした担当者とが同一である上、伝票番号が連続しているから、これらを同時処理したことが推認される(乙3の6と7、乙4の7、8、乙5の7と8、乙7の7と8、乙8の7と8、乙9の7と8、乙10の7と8、乙11の7と8、乙12の7と8、乙13の11と12、乙14の6と7)。したがって、本件第2から第4貸付け及び第6から第13貸付けについては、旧債務の既発生利息の現実の弁済がなかったものと推認される。
(ウ) これに対し、本件第5、第14及び第15貸付けについては、既発生利息の弁済時の領収書兼残高確認書の「お預かり」欄に預り金額の記載がある上(乙6の6、15の7、16の6)、その既発生利息の返済処理の伝票作成担当者と、旧債務全額返済処理の伝票作成担当者とが異なっているから(乙6の6と7、乙15の7と8、乙16の6と7)、現実に原告から被告に対して既発生利息の弁済金の交付がされたものと推認するのが相当である。
(エ) 上記によれば、被告は、本件第2から第4貸付け及び第6から第13貸付けについては、旧債務の既発生利息の現実の弁済がなかったにもかかわらず、これがあったかのような事実に反する記載をしていることになるから、上記各貸付けについては17条書面としての要件を欠くというべきである。
(オ) なお、原告は、「被告が借換え時に現実に既発生利息の弁済を受けたとしても、それは重利を徴収するための脱法行為にすぎず、みなし弁済の適用はされないことになるとともに、借換えにつき旧債務の記載がないことになるから、17条書面の該当性を欠く。」旨主張する。
しかし、借換え時に現実に交付した既発生利息分の現金が新規貸付額から出捐されたと認めるに足りる証拠はなく、原告の手元所持金から支払われたものと推認されるから、実質的な重利に当たるということはできず、原告の上記主張を採用することはできない。
(4) 運転免許証及び健康保険証の各写しの受領の記載について
ア 17条書面には、「貸付けに関し貸金業者が受け取る書面の内容」を記載しなければならないとされている(貸金業法17条、施行規則13条)。
イ そうであるところ、被告は、「運転免許証及び健康保険証の各写しの受領は、債務の内容に関わる記載ではなく、貸金業法17条の趣旨、目的に反することはないから、この点の不記載が17条書面への該当性を失わせるものではない。」旨主張する。
ウ そこで、検討するに、利息制限法によれば不当利得として返還せざるを得ないはずの超過利息をみなし弁済として貸金業者が適法に取得することができるとした貸金業法の趣旨は、貸金業者が契約書面や受取証書を交付するなどして業務の適正な運営を確保しようと務めていることに対して政策的に恩典を与えたものであると解される。そうであるところ、運転免許証及び健康保険証の各写しは、抽象的にはその不正利用の可能性があるし、記載された情報がプライバシーに関わる重要な事項として、消費者保護の対象に含まれるべきものであるから、そのような書面の授受を明確にすることは、貸金業者の業務の適正な運用に資するものである。したがって、運転免許証及び健康保険証の各写しは、「貸付けに関し貸金業者が受け取る書面の内容」(貸金業法17条、貸金業の規制等に関する法律施行規則13条)に含まれるというべきである。
エ そうであるところ、本件第1貸付けについては、被告が原告から運転免許証及び健康保険証の各写しを受領しているにもかかわらず(乙18の1)、その受領の事実を契約書面(乙2の1)に記載していない。
オ したがって、本件第1貸付けについては17条書面としての要件を欠く。なお、本件第1貸付け以外の本件第3及び第4貸付けについては、運転免許証及び健康保険証の各写しが被告に交付されたことを認めるに足りる証拠がない。
(5) エイワキャピタルへの債権譲渡分の貸主の記載について
ア 原告は、本件第12から第14貸付け(乙2の12から14まで)については、その貸主が不明であるから、17条書面の要件を欠く旨主張する。
イ しかし、本件第12から14貸付けについては、被告による各貸付けと同日付けで直ちに被告からエイワキャピタルへの債権譲渡がされ、これに原告が承諾を与えていたものであって、貸金業者名としては被告が明記されているから(乙2の12から14まで)、貸金業法17条1項1号の「貸金業者の商号、名称又は氏名及び住所」を記載したものであるということができる。したがって、この点に関する原告の主張は、採用することができない。
(6) エイワキャピタルへの債権譲渡前の従前貸付債務の表示について
ア 本件第12貸付け時に被告からエイワキャピタルに債権譲渡がされているから(乙2の12)、従前貸付けの債務が原告と被告との関係では消滅しているはずであるが、本件第13から第15貸付けの契約書面(乙2の13から15まで)には、それが表示されている。
イ したがって、本件第13から第15貸付けの契約書面については、貸金業法17条1項3号の「貸付けの金額」に誤りがあり、17条書面としての要件を欠くというべきである。
(7) エイワキャピタルへの債権譲受日、債権譲受額の記載について
ア 債権譲受日の記載について
(ア) 原告は、本件第12から第14までの貸付け(乙2の12から14まで)については、貸金業法24条で要求されている「債権譲受日」の記載がない旨主張する。
(イ) しかし、上記各貸付けの契約書面(乙2の12から14までの各第13条1(1))には、借主が貸付金員の交付を受けた当日に債権譲渡がされることを承諾する旨の文言と、日付け入りの貸金受領文言があるから、これを合理的に考えると、貸付金受領日と同日付けで債権譲渡がされたことが譲渡人及び譲受人の双方から借主に対して同一書面により告知されたものと解することができる。したがって、上記の債権譲渡の承諾条項の内容をもって「債権譲受日」の記載がされたものと認めることができる。
(ウ) したがって、この点に関する原告の主張は採用することができない。
イ 債権譲受額の記載について
(ア) 次に、債権譲受額の記載の有無について検討するに、被告は、契約書面(乙2の12から14まで)の13条1項(1)に「貸主が借主に対して有する本証書に基づく元本請求権及び利息請求権並びに損害賠償請求権その他一切の権利」と記載されているから明確である旨主張する。
(イ) しかし、貸付当初の貸金業者に課される貸付金額明示の規制が債権譲渡後には消滅して包括的な記載が許されるとすると悪質な債権取立業者が横行しかねないから、当初の貸金業者に対するのと同様の規制が債権譲渡時にも要求されるものと解するのが貸金業法24条の趣旨に合致する。したがって、譲受債権額の記載としては、譲り受けた債権の具体的な金額を明示することが必要であり、「貸主が借主に対して有する本証書に基づく元本請求権及び利息請求権並びに損害賠償請求権その他一切の権利」というような包括的な記載は許されないというべきである。
(ウ) そうであるところ、本件第12から第14貸付け(乙2の12から14まで)については、貸金業法24条で要求されている「債権譲受額」の具体的な記載がないから、17条書面としての要件を欠く。
(8) 借入れマスター契約について
ア 原告は、「契約書面以外に、交付されていない借入マスター契約書の適用があるとする点(乙2の12、13、14の第1条)は、一通の書面自体で契約関係を説明するという17条書面の趣旨に反し、17条書面としての適格性を欠く。」旨主張する。
イ これに対し、被告は、「借入マスター契約(乙2の12から14まで)は、個別取引に先立ち、原被告間の取引関係について一般的に規定した基本契約である。貸金業法17条所定の要件との関係では、借用証書に貸金業法17条所定の事項がすべて記載されており、借用証書の記載のみで契約内容を確定することができるので、借用証書が17条書面に該当する。」旨主張する。
ウ そこで検討するに、貸金業法17条1項が、貸金業者に対して、成立した契約内容を書面に記載してこれを借主に交付しなければならないとした趣旨は、一般的に貸金業務の適正な運用によって借主の保護を図るとともに、貸金業者と借主との間の後日の紛争を防止することにあるものと解される。そうであるところ、貸金業法17条により記載が要求される契約内容が複数の書面に分かれて記載されていると、借主がその契約内容を確認することが困難になり、後日の紛争を招き易くなる。したがって、17条書面は、原則として一通の契約書面により記載することが必要であり、例外的に複数の書面に記載されている場合であっても、その基礎となる書面にはどのような補完書面により契約内容が補足されるのかを明確に特定し、その補完書面を借主に対して交付することが必要であるものと解される。
エ そうであるところ、本件第12から14貸付けの契約書面においてはマスター契約書が補完書面として明示されており、そのマスター契約書の写しを受領した旨の印刷文言の横に原告が署名をしているから、書面の一通性は確保され、貸金業法17条1項の契約書面が借主に交付されたものであると認めることができる。
2 18条書面について
(1) 18条書面の交付の有無について
ア 原告が被告に対し現金持参の方法により本件各返済を行ったとき、被告は、貸金業法43条1項2号に基づき、現金弁済を受けた被告の営業店において直ちに、同法18条1項各号に掲げる事項を記載した受取証書を原告に対して交付したものであると認めることができる(乙3の1から乙17の3まで)。
イ ただし、平成7年5月19日付けで弁済した9520円の領収書兼残高確認書(乙3の5)については、原告の署名がないから、その弁済に関しては、18条書面(受取証書)が実際に直ちに原告へ交付されたものであると認めることはできない。
(2) 受領文言の有無について
ア 原告は、乙第13号証の10から乙第17号証の3までの領収書兼残高確認書については、受領文言(施行規則15条1項1号)を欠いている旨主張する。
イ しかし、乙第13号証の10から乙第17号証の3の領収書兼残高確認書の受領文言については、後に被告から提出された領収書兼残高確認書の裏面(乙23の1から27の3)にその記載があるものと認めることができるから、原告の上記主張は採用することができない。
(3) 債権者の表示について
ア 平成12年10月18日付けでされた本件第12貸付けのときから平成14年10月12日付けでされた本件第14貸付けのときまで、被告が原告に対して有していた当該貸付債権を含む一切の貸付元利金債権は、エイワキャピタルへ譲渡されていたことを認めることができる。したがって、上記本件第12貸付け後の平成12年11月17日から本件第14貸付けが完済される平成14年4月11日までの間の返済の受取証書(乙14の1から16の7まで)において、その「債権者」欄に債権譲受人として「エイワキャピタル」が記載されていたことは、適当である。
イ もっとも、それらの受取証書の発行者(返済金の受領者)は、同書面の右上覧に記載された被告であると解されるから、債権者と受取証書作成者との間には不一致がある。
この点について、被告は、「エイワキャピタルとのサービサー契約に基づいて、領収書兼残高確認書の作成・交付業務を被告が代行しているが、貸金業法は受取証書の作成及び交付について代理人を使用することを禁止してはいないし、特段原告に不利益を与えるものではないので、上記代行方式によったことについて18条書面の該当性に欠けるところはない。」旨主張する。そこで検討するに、このように債権者と返済金受領者(事務代行者)が異なる場合には、被告が債権者の代理人(事務代行者)として受領する旨の文言を明示することが望ましいけれども、たとえその明示的な代理文言を欠いているとしても、本件においては、領収書兼残高確認書の文言を合理的に解釈すると、被告が債権者であるエイワキャピタルの代理人として、返済金を受領するものであると理解することができる。したがって、本件においては、代理受領文言が明示されていないから18条書面の要件を欠いている旨の原告の上記主張を採用することはできない。
(4) 借換え時の現実の利息支払の有無
ア 原告は、「被告は借換え時に従前の貸付けに関する利息の現実の授受がなかったのに、これを記載した受取証書を作成しているから、その返済部分は18条書面としての要件を欠く。」旨主張し、その具体例として、乙第3号証の6、第4号証の7、第5号証の7、第6号証の6、第7号証の7、第8号証の7、第9号証の7、第10号証の7、第11号証の7、第12号証の7、第13号証の11、14号証の6、第15号証の7及び第16号証の6の領収書兼残高確認書を指摘する。
イ しかし、前記認定のとおり本件第5貸付日(乙6の6)、本件第14貸付日(乙15の7)及び本件第15貸付日(乙16の6)における旧債務の既発生利息の返済については、実際に利息金の授受がされたものと認めることができるから、その点においては、上記各弁済日の領収書兼残高確認書は、適法な受取証書に当たるということができる。
他方、本件第2から第4貸付け、第6から第13貸付けの借換え時における旧債務の既発生利息の返済については、実際に利息金の授受がされたものとは認めることができないので、その記載金額には誤りがあり、18条書面としての要件を欠く。
(5) みなし弁済の要件を欠いた後にそのみなし弁済を前提とした後の受取証書の18条書面の該当可能性について
原告は、「乙第2号証の1を除くすべての領収書兼残高確認書について、一度でもみなし弁済が成り立たないとすれば、その後の18条書面の元利金に関する記載は実体と異なることになり、このような内容が記載された書面は貸金業法18条の要件を欠く。」旨主張する。
しかしながら、貸金業法18条が受取証書の授受を要求した主な目的は、後日の紛争を防止するために、当事者間で授受された返済額や充当関係を明示させる点にあるものと解されるところ、仮に一度みなし弁済の要件がないのにこれがあるものと誤信し、誤った残債務額等を記載した受取証書を作成したとしても、その後に授受された返済金額やその充当処理の仕方を整理分析することにより、借主が利息制限法に従った再計算を行うことは可能である。そのような点を考慮すると、たとえ一度みなし弁済の要件を欠き、受取証書の残債務額の記載に誤りが生じたとしても、その後に授受された返済金額やその充当処理の仕方が記載されている限り、18条書面としての該当可能性は否定されないものと解するのが相当であり、これに反する原告の上記主張は採用することができない。
3 支払の任意性について
(1) 原告は、「原告の支払はいずれも借換えの手続をしなければ追加借入れをすることができないという面もあるから、支払の任意性を欠く。」旨主張する。
(2) しかしながら、追加借入れをするかどうかは原告の自由であり、そうしなければ原告が期限の利益を喪失するような状況に陥ったことについては、借入当初は返済を約束しておきながら後にそれを履行することができなくなったという原告側の事情にその原因がある。そのような点を考慮すると、たとえ原告が追加借入れをするためにやむなく超過利息を支払ったとしても、なおその支払は任意でされたものというべきである。したがって、この点に関する原告の主張を採用することはできない。
4 みなし弁済の成否について
(1) 以上によれば、みなし弁済の要件を欠くことになる貸付け及び返済は、次のとおりになる。
ア 17条書面
(ア) 本件第1から第4貸付け及び第13貸付けの契約書面については、原告へ償還表を交付した事実を認めることができないから、17条書面としての要件を欠く。
(イ) 本件第2から第4貸付け及び第6から第13貸付けまでの契約書面については、旧債務の既発生利息の現実の弁済がなかったにもかかわらず、これがあったかのような事実に反する記載をしているから、17条書面としての要件を欠く。
(ウ) 本件第1貸付けの契約書面については、運転免許証及び健康保険証の各写しを受領しているにもかかわらず、その受領の事実を契約書面に記載していなかったから、17条書面としての要件を欠く。
(エ) 本件第13から第15貸付けの契約書面については、債権譲渡により旧債権者の債権額が消滅しているはずであるのに旧債権額が記載されており、貸金業法17条1項3号の「貸付けの金額」に誤りがあるから、17条書面としての要件を欠く。
(オ) 本件第12から第14貸付けについては、貸金業法24条で要求されている「債権譲受額」の具体的な記載がないから、17条書面としての要件を欠く。
イ 18条書面
(ア) 平成7年5月19日付けで弁済した9520円の領収書兼残高確認書(乙3の5)については、原告へ交付されたものであると認めることができないから、18条書面としての要件を欠く。
(イ) 本件第2から第4貸付け及び第6から第13貸付けの借換え時における旧債務の既発生利息の返済については、実際に利息金の授受がされたものであると認めることはできないので、その記載金額には誤りがあり、18条書面としての要件を欠く。
(2) 上記によれば、本件第1から第4貸付け、第6から第15貸付けについては、すべて17条書面の要件を欠くから、その各返済のすべてについて、みなし弁済が成立しない。
これに対し、本件第5貸付けについては、17条書面及び18条書面が適法に直ちに交付され、支払の任意性も認めることができるから、みなし弁済が成立する。
なお、本件第5貸付けの返済のうち、別紙「裁判所認定計算表」の番号32から35番の返済分までは、その約定利率39.785%(乙2の5)に従った利息金の支払に充当され、利息完済後の残額をその本件第5貸付けの元金部分の返済に充当するが、同番号35番の返済時に本件第5貸付けの残元本が完済されてしまう計算になるので(従前債務への充当額は887円)、番号36番の返済からは利息制限法所定の制限利率18%による利息金と、本件第4貸付けまでの未払債務元金10万2574円の返済に充当する。
5 過払金の計算方法について
(1) 取引の一個性(過払金の後の新規貸付金への充当の可否)について
本件のように借主が高利の貸金業者から継続的に貸付けを受け続けるような形態の消費貸借契約においては、その合理的意思の解釈として、その貸付けは一連の一個の取引であって、みなし弁済が成立しない場合に利息制限法の制限利率によって再計算した過払金は後の新規貸付債務の支払に充当される旨の黙示的な合意が存在するものと解するのが相当である。したがって、本件においては、利息過払額を後の新規の貸付額の返済に充当して計算するのが相当である。
(2) 継続的な借換えの場合の貸付額について
本件のように継続的に借換えをしている場合、名目上の貸付額を貸付額として単純に計算すると、旧債務の利息部分を元本に組み入れてその利息部分に対して新たに利息を付けるという実質的な重利に陥るから、そのような計算は相当ではない。過払利息の計算上の貸付額としては、被告が原告に実際に交付した金額(新規貸付額から旧債務の計算上の元利金返済額を控除した額)によるべきである。もっとも、本件においては、本件第5、第14及び第15貸付日の利息については、その旧債務の利息額が現実に授受されて返済されたものであるから、新規貸付額よりその利息額を控除することは相当ではなく、新規貸付額から旧債務元本額のみを控除した金額を計算上の貸付額とする。
(3) 利息制限法所定の利率について
利息制限法の利率については、一連の取引であるから、最初の貸付額を基準とした制限利率を選択するのが適当であるが、利息制限法の借主保護の理念に照らすと、残債務額が増加してこれを基準とした場合の制限利率がより低下するような場合にはその時点において低い制限利率に順次変更されるとともに、いったん低い制限利率に変更された以上は、その後の返済により残債務額が減少したとしても、これに適用される制限利率は上昇しないものと解するのが相当である。
(4) 悪意受益者について
ア 被告は、「本件各返済について、すべてみなし弁済が成立するものと認識しており、過払金であるとの認識はなかったので、被告は悪意の受益者に当たらない。」旨主張する。
イ しかしながら、本件各貸付けの返済(ただし、本件第5貸付けの返済を除く。)について、みなし弁済の適用がないことは上記説示のとおりであり、被告は、みなし弁済の適用要件を欠くことになる事実の存在を認識していたものと認めることができるから、悪意の受益者に当たるというべきである。したがって、これに反する被告の上記主張は採用することができない。
(5) そうすると、被告の原告に対する過払金元金額は、別紙「裁判所認定計算表」の「残元金」欄記載のとおり30万3235円となり、最終返済日までの悪意受益者の確定利息金合計額は、同表「未払過払利息」欄記載のとおり3266円となる。
(6) よって、被告は、原告に対し、上記過払元金30万3235円と、最終返済日までの悪意受益者の確定利息金3266円の合計額30万6501円及び内過払元金30万3235円に対する平成14年7月11日(最終返済日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による悪意受益者の利息金の支払義務がある。
6 結論
以上によれば、上記5項(6)の金員のうち、30万1359円(過払元金29万8155円と悪意受益者確定利息金3204円の合計額)及び内過払元金29万8155円に対する平成14年7月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による悪意受益者の利息金の支払を求める原告の請求は、理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 齊木教朗)
原告計算表〈省略〉
裁判所認定計算表〈省略〉


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