(5) 争点(5)について
ア 原告の主張
受取証書の交付時期について、貸金業法18条1項は、弁済を受けたときは、その都度、直ちに、受取証書を交付すべき旨規定し、「直ちに」とは、債務者が債権者方に現金を提供した場合は、同法49条3号が本条違反に対し罰則を定めていること及び民法486条が弁済者に同時履行の抗弁権を付与する規定と解釈されることを勘案すると、支払と引換えに受取証書を交付すること意味すると解すべきことは明らかである。
しかし、銀行振込で支払がされた場合は、例外なく受取証書を即日交付することを要求するものではない。そもそも法18条1項の趣旨は、債務者に充当計算の手掛りを与えることで、弁済金の充当関係を明らかにし、紛争を防止することにある上、個々の貸金業者の事務処理能力、年末・月末・休み明け等の時期的な事務量の増大及び突発的な人員の欠如等によって、受取証書の郵送が遅れることは当然予想されることであり、かかる場合にまで、一律に受取証書の即日交付を要求することは貸金業者に不可能を強いるものである。そして、本件においては、原告は、被告Y1から支払を受けた後、その日の翌日から遅くとも3日以内に被告Y1に対し、同法18条に定める受取証書を発送しているのであるから、「直ちに」という要件を満たしているものである。
イ 被告の主張
18条書面は直ちに交付されることを要する。直ちにとは、その場で即時の意義であるから、返済の方法として銀行振込は予定されていないのである。仮にこの点はおくとしても、法18条書面は、銀行振込後、直ちに交付されなければならないところ、本件では入金日の翌日又は3日後に本件受取証書(甲7から46)が発送されているから、直ちに交付されたものではない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) 前記争いのない事実等及び証拠(甲4ないし6)によれば、貸付契約説明書(甲5)には、元金又は利息の支払を怠ったときは、通知催告なくして期限の利益を失い、債務全額及び残元本に対する遅延損害金を即時に支払う旨の本件特約が記載されていることを認めることができる。
(2) 確かに、超過利息の約定は、貸金業法43条のみなし弁済の規定が適用されない限り無効であるから、債務者が支払期日において、利息制限法所定の制限利息及び約定元金に充当する旨表明して、それに相当する額を支払えば、期限の利益を喪失することはないものと解せられるところ、本件特約には、みなし弁済の規定が適用されない場合の当事者間の法律関係の記載はされていない。
しかしながら、同法17条が所定の記載事項を法定した趣旨は、債務者に契約内容を正確に知らせ、正確な充当計算をさせることにより、後日の紛争を防止しようとした点にあるのであるから、同条及び施行規則13条は、その効力の如何にかかわらず、当事者間の合意の内容をそのまま記載することを求めているにすぎないのであって、みなし弁済の規定の適用がない場合の当事者間の法律関係までも記載することを要求するものではないと解するのが相当である。
(3) したがって、本件特約を記載した本件貸付契約説明書は、法17条書面の要件を満たしているものであり、被告らの主張は理由がない。
2 争点(2)について
(1) 前記争いのない事実等、証拠(甲4ないし46)及び弁論の全趣旨によれば、被告らは、貸付契約説明書(甲5)の交付を受け、原告に対し、償還表(甲6)の元利金の全部又は一部に充当されることを認識して、別紙元利金計算書記載のとおり、振込送金の方法により弁済したことを認めることができる。
(2) ところで、貸金業法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」及び同条3項にいう「債務者が賠償として任意に支払った」とは、債務者が利息の契約に基づく利息又は賠償額の予定に基づく賠償金の支払に充当されることを認識した上、自己の自由な意思によって支払ったことをいい、債務者において、その支払った金銭の額が利息制限法1条1項又は4条1項に定める利息又は賠償額の予定の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しない(最高裁判所昭和62年(オ)第1531号平成2年1月22日第二小法廷判決・民集44巻1号332頁参照)と解するのが相当である。
(3) そうだとすると、被告Y1が、利息制限法所定の制限利率を超過する約定利率の支払義務がないことを知らずに、利息を支払っていたとしても、支払の任意性を左右しないことは明らかである。したがって、この点に関する被告らの主張も理由がない。
3 争点(3)について
(1) 争いのない事実等及び証拠(甲4ないし6)によれば、原告が被告らに対し、金銭消費貸借契約証書(甲4)とともに、貸付契約説明書(甲5)及び償還表(甲6)を交付したこと、そして、上記貸付契約説明書第4項には、「毎回(月)の支払いは別紙償還表の通りとし」との記載があることを認めることができる。
(2) ところで、法17条書面に記載すべき事項が多数の書面に分散している場合には、どの書面が法17条書面であるかが不明確となり、契約内容を巡って後日紛争が生じることを防止するという同法17条1項の趣旨を損なうことになるから、法17条書面としては原則として許されない。しかし、複数の書面による場合であっても、基礎となる書面に記載のない同法17条1項所定の事項が、他の書面によって補完されることが明確となっている場合には、例外的に法17条書面の交付があったものと認めるのが相当である。
本件においては、上記認定の事実によれば、基礎となる書面に記載のない貸金業法17条所定の事項が他の書面によって補完されていることが明らかとなっているものと解することができるから、原告は、法17条書面を被告らに交付したものといえる。
(3) なお、償還表は、あくまでも当初の約定に従って弁済がされた場合の支払予定表であるから、償還表の記載と一致しない支払があった場合には、その後の支払額は償還表と一致しなくなるのは当然であり、一致しなくなったからといって、法17条書面の要件を満たさなくなったといえないことは明らかである。したがって、この点についての被告らの主張も理由がない。
4 争点(4)について
(1) 争いのない事実等及び証拠(甲7ないし46)によれば、本件受取証書には、受領年月日、受領金額、利息及び元金への充当額、弁済後の残存元金、残存利息又は損害金、原告の商号、登録番号及び支店の住所等が記載されていること、そして、本件受取証書には、契約番号が記載されているが、原告の本店所在地及び本件消費貸借契約の契約年月日が記載されていないことを認めることができる。
(2) 被告らは、本件受取証書には、貸金業法18条の記載事項である契約年月日の記載がなく、また、契約番号の記載でこれに代える旨の施行規則15条2項のような省令によって法18条の規定を緩和するためには契約年月日を記載することが不可能又は著しく困難であるなどの特段の事情を要するところ、本件においてはそのような特段の事情は存しない旨主張する。
しかしながら、法18条1項による規則への委任の趣旨は、弁済者が払い込んだ金銭の利息及び元本等への充当関係を具体的に把握することができるように受取証書の記載内容を具体化することを規則に委任することにある。したがって、規則により具体的に定められたものは、法による委任の趣旨を逸脱しない限り、違法とはならない。そして、同法18条1項が1号から3号までを受取証書の記載事項として定めた趣旨は、弁済者による弁済がどの貸付契約に基づく債権に対するものであるかを明確にするところにあり、それ以上に具体的な契約年月日等を明らかにすることによって取引開始からの取引期間を明らかにし、利息制限法による超過利息の元本充当の可能性による残元本債務の減少等を知る手がかりを与えることまでを目的としたものではない。そうだとすると、弁済者による弁済がどの貸付契約に基づく債権に対するものであるかは契約番号によって明確にすることができるものであるから、施行規則が契約番号に代えることとしたものと解することができる。したがって、被告らが主張するように、施行規則によって同法18条1項の規定を緩和するためには契約年月日を記載することが不可能又は著しく困難であるなどの特段の事情を要すると解する合理的理由はない。したがって、この点についての被告らの主張も理由がない。
5 争点(5)について
(1) 争いのない事実等、証拠(甲47ないし85の各1・2)及び弁論の全趣旨によれば、被告Y1が利息及び元本の一部を銀行振込の方法で弁済したこと、これに対し、原告は、上記弁済の都度、1日ないし4日後には、被告Y1に対し、上記各弁済に対応する本件受取証書を郵便で発送したこと、原告は、原則として被告Y1から入金があった日の翌日には本件受取証書を郵便で発送しているが、金曜日に入金があった場合には、翌週の月曜日(なお、平成14年1月及び平成15年1月は月曜日が祝日のため火曜日)に郵便で発送していることを認めることができる。
(2) 被告らは、原告が、被告Y1の銀行振込後、本件受取証書を直ちに交付されなければならないところ、入金日の翌日又は3日後に本件受取証書を発送しているから、直ちに交付されたものではない旨主張する。
しかしながら、貸金業法18条1項の趣旨は、債務者に充当計算の手掛りを与えることで、弁済金の充当関係を明らかにし、紛争を防止することにある上、個々の貸金業者の事務処理能力、年末・月末・休み明け等の時期的な事務量の増大、煩雑等によって、受取証書の郵送が遅れることは当然ありうることであり、かかる場合まで、一律に受取証書の即日交付を要求することはできないといわざるを得ない。そうだとすると、上記認定のとおり、原告は、被告Y1に対し、原則として同被告から入金があった日の翌日には本件受取証書を郵便で発送しているが、金曜則こ入金があった場合には、翌週の月曜日(なお、平成14年1月及び平成15年1月は月曜日が祝日のため火曜日)に郵便で発送しているのであるから、同法18条1項の「直ちに」の要件を満たしてるものというべきである。したがって、この点についての被告らの主張も理由がない。
第4 結論
以上によれば、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、被告の反訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 酒井正史)
元利金計算書〈省略〉


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