第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) まず、平成5年3月時点における、原告の旧レイクに対する借入債務の額について判断する。
前記の前提となる事実及び甲4ないし9によれば、昭和57年ころから平成5年3月ころまで、原告は旧レイクとの間で貸金取引をし、多数回の借入と弁済を繰り返していたこと、その弁済方法は元利均等方法によっていたが、借入利率は実質年率47.45%の水準にあり、利息制限法による制限利息をはるかに超えるものであったことが認められる。
この間の取引の詳細は明らかではないが、原告の弁済がいわゆるみなし弁済に当たらない場合には、弁済金のうち利息制限法所定の制限利率を超過する分は元本に充当されることになるから、前記認定した事情からすると、昭和57年から約10年を経過した平成5年3月の時点においては、この間の貸金取引の借入元本が完済され、更には過払金が生じている可能性が大きいことを推認することができる。
(2) 前記の前提となる事実によれば、被告は、平成10年11月2日、旧レイクから営業譲渡を受けたものである。
ところで、本件において、被告は、平成5年3月8日以降における原告と旧レイク・被告との間の取引については、取引記録を明らかにしているが(乙4、6)、それ以前の原告と旧レイクとの間の取引については、既に10年間の保管期間を経過したので取引記録を消除したとして、これを明らかにしない。
また、本件においては、平成16年2月27日、原告の申立てに基づき、被告に対し、平成5年3月8日までの取引記録書類等の提出を求める文書提出命令が出されたが、被告は既に取引記録を消除したとして前記文書を提出しない。
貸金業者である被告が、その基本的営業に関する取引記録を保管期間の経過とともに機械的に消除するとは、にわかに信じ難いものと言わなければならない。この取引記録は、過去の貸金取引の経過を客観的に記録したもので、旧レイクからの原告の借入・弁済の経過を明らかにするとともに、被告にとってもいわゆるみなし弁済の成否の基礎となる記録であり、それ自体は客観的で中立的なデータであるといえるからである。また、いわゆる消費者金融をめぐる多数の法的紛争において、借入や弁済の経過が争点になっていることは、公知の事実であり、貸金取引に関する取引記録は、このような争点を解明し、立証するために極めて有用なデータである。
このようなことからすると、被告が、平成5年3月8日以前の旧レイクと原告との間の取引記録の提出を拒み、あるいは、これを消除したとして、その取引経過を明らかにしないことは、営業の譲渡人である旧レイク及び被告の顧客であった原告に対する対応としては、健全さを欠く不自然なものである。このことは、前記取引記録が被告にとって不利なデータ、すなわち、原告の借入・弁済の経過から借入債務が完済されていること等を示すデータであること、そのため、そのことを認識した被告が、意図的に前記取引記録の提出を拒み、あるいは、それを意図的に消除したことを強く推認させるものと言わざるを得ない。
(3) 前記(1)のとおり、平成5年3月の時点において、旧レイクに対する原告の借入債務が完済されていた可能性が大きいことが推認されるところ、これに加えて、前記(2)のとおり、被告が意図的に提出を拒み、あるいは、意図的に消除したとされる前記取引記録には、原告の借入債務が完済されていること等のデータが記載されていたと強く推認されることを合わせ考慮すると、平成5年3月8日の時点では、原告の旧レイクに対する借入債務が完済されていたこと、少なくとも残元金がゼロとなっていたものと認めるのが相当である。
(4) また、平成5年3月8日から平成10年11月6日までの原告と旧レイクとの間の借入・弁済に関する取引経過及び同月9日から平成14年6月6日までの原告と被告との間の借入・弁済に関する取引経過が、別表1記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。
そこで、以下、別表1記載の取引経過を前提にして、判断を進める。
2 争点(2)について
(1) 前記のとおり、平成10年11月9日、被告は旧レイクから本件営業譲渡を受けたが、乙1、乙10ないし11によると、本件営業譲渡について、次の事実が認められる。
ア 旧レイクは、平成10年11月当時、本件営業譲渡に先立ち、貸金営業の顧客に対し、「契約書 書き替えのおねがい」と題する書面(乙10)を送付した。
この書面には、「この度弊社は、営業譲渡により世界最大級のノンバンクであるGEキャピタルグループの新会社として消費者金融業を行うこととなりました。これに伴いすべてのお客様に契約書の書き替えをお願いしております。」との記載がされていた。
イ 被告は、本件営業譲渡以降、旧レイクの顧客との間で、契約の切り替えを行った。
この際に使用した「契約切替申込書」と題する書面(乙11)には、次の趣旨の記載がされていた。
(ア) 旧レイクから被告への営業用資産の譲渡に伴い、旧レイクからの借入を被告からの借入に切り替えることに同意する。
(イ) 旧レイクとの間で締結している融資限度額設定基本契約と「限度額」「約定日」「返済方式と返済額」「約定利率」において同一の条件により、被告との間で融資限度額設定基本契約書を締結する。
(ウ) 旧レイクからの借入債務にかかる約定利息を全額支払った場合にのみ、被告との間で融資限度額設定基本契約書が発効する。
(エ) 融資限度額設定基本契約書が発効した場合には、被告は旧レイクからの借入残元本と同額の融資を実施し、同融資資金額を旧レイクに対する借入金の返済に充てるものとする。旧レイクとの金銭消費貸借契約は、旧レイクに対する借入金債務が弁済によって消滅した時点をもって解約されるものとする。
ウ また、被告が契約の切り替えの際に使用した融資限度額設定基本契約書(乙1)には、次のような趣旨の記載がされていた。
顧客は、被告からの借入に当たって銀行振込の方法による場合に、本契約に先立ち、旧レイクに対して銀行口座を届け出ているときは、被告に対して同一の口座を届け出ているものと取り扱われることに同意する。
(2) 前記(1)の認定事実によれば、本件営業譲渡において、旧レイクと被告は、旧レイクがその顧客と締結していた融資限度額設定基本契約を同一の条件のもとに被告に移行する趣旨の契約上の処理を、契約の「書き替え」ないしは「切り替え」という用語を用いて進めたことが認められる。すなわち、旧レイクの顧客は、旧レイクとの取引契約と同一の限度額、返済方式・返済額、約定利率等で被告と取引契約を締結するものとされ、被告と旧レイクが連携した貸付処理をすることにより、営業譲渡時点での旧レイクに対する借入額が被告に移行することになり、旧レイクにおいて使用された返済用の銀行振込口座も被告の返済用に流用するものとされている。
このようなことからすると、旧レイク、被告及び顧客間では、旧レイクと顧客との契約関係がそのまま被告に移行するという趣旨の合意、すなわち契約上の地位の譲渡の合意がされたと認めるのが相当である。(なお、旧レイクとの契約が解約されるという取扱い(前記(1)イ(エ))は、契約上の地位の譲渡に伴い、二重の契約関係が生じないようにすること(地位の譲渡が交換的なものであること)を注意的に定めたものと解するのが相当である。)
また、本件営業譲渡に伴う前記の契約上の地位の譲渡に際して、旧レイク、被告及び顧客との間で、過払金が生じている場合について、これを旧レイクと顧客との間の債権債務に残すとの特段の合意があったと認めるに足りる証拠はない。そうすると、仮に旧レイクと顧客との間で過払金債務が生じていれば、契約上の地位の譲渡における原則に従い、この債務は、被告と顧客との間に引き継がれるものと解すべきである。
なお、被告は、本件営業譲渡においては、旧レイクの過払金債務を含む債務が被告に承継されないとし、その旨の登記がされたと主張する。しかし、前記のとおり、本件営業譲渡に際して、過払金債務が承継されないとする合意が、顧客、旧レイク及び被告の間でされたものとは認められないし、そうである以上、債務を承継しない旨の登記に関する主張は、前提を欠く理由のないものといわざるを得ない。
(3) 以上の認定事実及び乙1によれば、原告は、旧レイク及び被告と前記のとおりの契約上の地位の譲渡に関する合意をし、平成10年11月9日、被告との間で、融資限度額設定基本契約書を締結したことが認められる。(なお、争点(3)に関する当事者の主張においては、契約上の地位の譲渡等という用語が明示されていないが、原告の主張する事実がその趣旨に立つものであることは明らかである。)
3 争点(3)について
被告は、原告との取引の都度、貸金業法に定める必要書面を交付し、かつ、原告の利息の支払は任意にされたものであり、原告の弁済はいわゆるみなし弁済となる旨主張する。
しかし、被告は、本件において、被告が顧客からの弁済に当たって採用している一般的な書面の方式、交付方法等について主張し、証拠として利用明細書、領収書の一般的な様式を示す書証を提出するのみで、旧レイク及び被告との取引における原告の個々の弁済が、貸金業法の定める要件を充足していることについて、具体的な主張・立証をしない。
したがって、被告のこの点に関する主張は、理由がない。
4 争点(4)について
前記1の認定事実によれば、被告は、原告から利息制限法所定の制限利率を超える利息を徴収していることを明らかに認識していたと認められるから、被告はいわゆる悪意の受益者に当たるというべきである。(なお、被告は、原告の弁済がみなし弁済に当たると認識していたとして、悪意の受益者に当たらない旨主張するが、前記のとおり、原告の弁済がみなし弁済に当たるとは認めることができないから、被告の主張は失当である)
5 以上の点からすると、原告は被告に対し、別表1記載のとおり、平成14年6月6日時点において、163万3147円の過払金があったと認められる。
6 よって、原告の主位的請求は理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 小池裕)
別表1〈省略〉
別表2〈省略〉


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