◆ 平成15年11月20日 東京地裁 平14(ワ)26933号
原告 ●●
同訴訟代理人弁護士 ●●
被告 アエル株式会社
同代表者代表取締役 ●●
同訴訟代理人支配人 ●●
主 文
1 被告は、原告に対し、84万1082円並びに内金58万2802円に対する平成14年1月21日から支払済みまで及び内金25万8280円に対する平成14年12月31日から支払済みまで、各年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを5分し、その2を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項及び第3項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は、原告に対し、103万9628円並びに内金63万9628円に対する平成13年11月22日から支払済みまで及び内金40万円に対する平成14年12月31日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みまで、各年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、貸金業者から金員を借り入れてその返済を繰り返していた顧客が、貸金業者に対し、不当利得に基づき過払金の返還請求をするとともに、被告は過払金の利得について取引終了時点で既に悪意であったと主張して終了日から支払済みまで年5分の利息の支払を求め、また、被告は原告からの取引経過開示要求に応じなかったものであり、これにより原告は弁護士に訴訟手続を委任することを余儀なくされ、かつ、精神的損害を被ったと主張して、不法行為に基づき、弁護士費用相当分の一部及び慰謝料の支払を求める事案である。
1 前提事実
(1) 原告は、別紙3各年月日欄記載の日に、被告から各貸付額欄記載の金額を借り入れ、又は、被告に対し各弁済額欄記載の金額を弁済した(当事者間に争いがない。)。
(2) 原告は、原告訴訟代理人に対し債務整理を依頼し、同代理人は、平成13年12月10日、被告に対し債務整理受任通知を送付するとともに、金融庁「事務ガイドライン(3-2-3(1)「債務者、保証人その他の債務の弁済を行おうとする者から、帳簿の記載事項のうち、当該弁済に係る債務の内容について開示を求められたときに協力すること」)に基づいて、原被告間の取引経過(貸付、返済の金額、年月日)の開示を求めたところ、被告は、平成14年1月21日付けで、原告の被告に対する元金残高が49万5381円であるとの回答をしたのみであった(甲1及び2)。
同代理人は、その後被告に対し、再三にわたり原被告間の取引経過の開示を求めたが、被告渋谷東支店担当者からは、債務不存在確認で原被告間の債権債務関係を決着させてほしい、それでよければ3年分の履歴は開示するが、それ以上に開示はしないとの回答がなされただけであった(甲3、4及び7)。
同代理人は、平成14年9月に原告の記憶に基づいて仮の計算書を被告に提出したところ、被告は、再度電話により、過払金額は30万円程度にすぎないはずであるところ、訴訟になっても3割カット等の例があり、被告としては平成10年11月以降の分に限って開示するから、過払金請求額について大幅な減額を検討するよう求めてきただけで、それ以上に取引経過の開示に応じる態度を示さなかった(甲5、7)。
被告は、その後も、原告に対し取引経過の開示をしなかった(甲7、弁論の全趣旨)。
(3) 原被告間においては、利息計算について、借入初日は算入しないとの合意がある(第7回口頭弁論期日において争いがない旨確認した。)。
2 争点
(1) 被告が原告に対し返済すべき不当利得の元金額
(原告の主張)
別紙1のとおり、過払金額は63万9628円である。
(被告の反論)
別紙2のとおり、過払金額は58万2802円である。
(2) 被告は民法704条の悪意の受益者に該当するか否か
(原告の主張)
原被告間における最終取引日は平成13年11月22日であり、この時点で既に過払金が発生しているが、被告は、貸金業者である以上、貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)43条のみなし弁済についてはその要件が厳格であることを熟知していたはずである。その結果、被告が過払金について悪意の受益者であるためには、被告の貸付利息が利息制限法所定の利率を超過していること、すなわち、法律上の原因がないことの認識を被告が有していれば足りるのであって、被告は遅くとも平成13年11月22日までには法律上の原因がないことにつき悪意であった。
(被告の反論)
被告は、原告による利息の弁済が任意の弁済であると解釈し、原告からの弁済については貸金業法43条のみなし弁済の要件の立証が可能であると考えていたものである。ところが、被告が、原告との取引内容を調査したところ、貸金業法18条に該当する書面が紛失していることが判明したため、被告としては同法43条のみなし弁済の要件の立証が困難であると判断した。
したがって、結果的に過払金が発生することにはなるが、過払金発生の時点において被告が不当利得につき悪意であったというわけではない。
(3) 取引経過に関する書類を開示しなかったことは不法行為の要件である違法性を有する行為に該当するか。
(原告の主張)
ア 多重債務者らについて、弁護士の手によって任意に債務を整理しようとする場合、全ての金融業者からその取引経過の開示を受けた上で、各債権者との間の債権債務額を確定し、公平で平等な処理を図るのでなければその目的を達しない。多重債務者も、適切な時期に各消費者金融業者との間の取引経過を明確にし、残債務の有無、過払金の有無及びその額が明確になれば、早期に債務の整理をして、経済的な更生を図ることができる。
一般に、貸金業者は、顧客が多重債務による支払不能の状態に陥り、弁護士に任意整理を委任して自主的な経済的更生を図ったときは、少なくともこれを妨害してはならない義務がある。しかるに、被告は、元金残高のみを開示して取引経過の開示に応じず、前記義務に違反したものである。
イ 前記ガイドラインが仮に貸金業者に対する開示義務を定めたものではなかったとしても、ガイドライン自体が開示義務を否定しているわけではなく、少なくとも貸金業者には信義則上の開示義務がある。
(被告の反論)
前記ガイドラインは、金融庁の貸金業者に対する指導方針であり、協力要請の意味を有するにとどまり、貸金業者に取引経過に関する書面の開示義務を負わせるものではない。また、貸金業法にも開示義務を定めた規定は存在しない。したがって、貸金業者がこれに従わないからといって、その行為が違法性を帯びることにはならない。


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