4 原告らと被告武富士間の争点
(1) 法43条のみなし弁済の成否
ア 被告武富士の主張
(ア) 17条書面
被告武富士では、原告らに対し、包括契約書面と個別契約書面を交付していた。
a 包括契約書面
(a) 平成5年6月末まで
被告武富士は、原告らに対し、包括契約の都度、限度額融資契約証書、あるいはリボルビング限度額契約証書を交付していた。
限度額融資契約証書あるいはリボルビング限度額契約証書のフォームは、丁2(枝番も含む。以下、枝番をすべて含む場合は、親番のみ示す。)のとおりである。
法17条1項及び法施行規則13条1項1号所定の事項と限度額融資契約証書あるいはリボルビング限度額契約証書の記載事項とを対比すると、別紙記載事項総括表(1)-包括契約書面のとおりである。
(b) 平成5年7月以降
被告武富士は、原告らに対し、包括契約の都度、カードローン契約証書を交付していた。
カードローン契約証書のフォームは、丁3のとおりである。
法17条1項及び法施行規則13条1項1号所定の事項とカードローン契約証書の記載事項とを対比すると、別紙記載事項総括表(1)-包括契約書面のとおりである。
カードローン契約書については、まず、丁3の1が使用され、次に、丁3の2が使用されるようになった。
b 個別契約書面
(a) 店頭取引の場合
被告武富士は、原告らに対し、個別契約の都度、領収証兼残高確認書あるいは領収証兼ご利用明細書を交付していた。
領収証兼残高確認書、領収証兼ご利用明細書のフォームは、丁4のとおりである。
法17条1項及び法施行規則13条1項1号所定の事項と領収証兼残高確認書、領収証兼ご利用明細書の記載事項とを対比すると、別紙記載事項総括表(2)-個別契約書面(店頭)のとおりである。
領収証兼残高確認書あるいは領収証兼ご利用明細書については、まず丁4の1、次に丁4の2、平成9年4月7日からは丁4の3がそれぞれ使われるようになり(丁5の1)、平成12年の事務ガイドライン改正を受けて、丁4の4が使用されるようになった。
(b) ATM取引の場合
被告武富士は、原告らに対し、個別契約の都度、ATMご利用明細書(領収証)を交付していた。
ATMご利用明細書(領収証)のフォームは、丁6のとおりである。
法17条1項及び法施行規則13条1項1号所定の事項とATMご利用明細書(領収証)の記載事項とを対比すると、別紙記載事項総括表(3)-個別契約書面(ATM)のとおりである。
ATMご利用明細書(領収証)については、まず、平成9年4月28日以前には丁6の1が、同日以降丁6の2が使用され(丁5の2)、平成12年の事務ガイドライン改正を受けて、丁6の3が使われるようになった。
(イ) 18条書面
被告武富士では、原告らに対し、個別契約の都度、領収証兼残高確認書、領収証兼ご利用明細書、あるいは、ATMご利用明細書(領収証)を交付していた。
a 店頭取引の場合
被告武富士は、原告らから弁済を受けたとき、原告らに対し、領収証兼残高確認書あるいは領収証兼ご利用明細書を交付していた。
領収証兼残高確認書、領収証兼ご利用明細書のフォームは、丁4のとおりである。
法18条1項及び法施行規則15条1項の所定の事項と領収証兼残高確認書、領収証兼ご利用明細書の記載事項とを対比すると、別紙記載事項総括表(4)のとおりである。
b ATM取引の場合
被告武富士は、原告らから弁済を受けたとき、原告らに対し、ATMご利用明細書(領収証)を交付していた。
ATMご利用明細書(領収証)のフォームは、丁7のとおりである。
法18条1項及び法施行規則15条1項所定の事項とATMご利用明細書(領収証)の記載事項とを対比すると、別紙記載事項総括表(5)のとおりである。
ATMご利用明細書(領収証)については、まず、平成9年4月28日以前には丁6の1、同日以降は丁7の1が使われ、平成12年の事務ガイドライン改正を受けて、丁7の2が使われるようになった。
イ 原告らの主張
(ア) 17条書面
a 被告武富士の主張は否認する。
b(a) 被告武富士からは、原告らとの間で作成した包括契約書それ自体が証拠提出されているわけではなく、実際にどのような書面が作成されたかは証拠上不明である。
(b) 被告武富士が提出する契約書のフォームによっても法17条を満たしていない。
i 例えば、昭和58年11月から昭和61年6月当時の被告武富士の包括契約書のフォームをみると、被告武富士の住所としては、本店所在地ではなくそれ以外の住所地が記載されているし(法17条1項1号違反)、被告武富士の登録番号が記載されていない他、貸付に際して原告らが受け取る書類の内容、期限前返済の可否も記載されていない(法施行規則13条1項1号イ、ロ、リ違反)。
約定支払日(返済期間。法17条1項7号)、借主の住所、氏名(法施行規則13条1項1号ロ)、借換の場合の従前の契約内容(同号カ)等については、手書で記入するシステムであるが、これらが例外なく、書き込まれた上で原告らに交付されたかは、証拠上不明である。
ii 次に、昭和61年12月から平成3年8月当時の被告武富士の包括契約書及び平成9年7月以降のフォームを見てみると、被告武富士の登録番号については記載がされるようになったようであるが、その他の点では依然として改善がされた形跡は認められない。
c また、個別貸付の都度、原告らに作成・交付したという個別契約書面についても、被告武富士は、単にどのような書面が発行される扱いか、書式(丁4)を示しているだけで、そのような書式の個別契約書面が本当に交付されたかは不明である。
実際、ATMを利用した貸付に際して、ATMのトラブルによって契約書面が発行されなかった事故例も報告されている。
(イ) 18条書面
a 原告らの被告武富士に対する返済は、店頭取引・ATM取引の他、銀行振込によって行われているところ、銀行振込による返済の場合、被告武富士は一切、18条書面とする書面を発行しない扱いをしている。
したがって、被告武富士が、返済の都度、18条書面を原告らに作成・交付していた事実は存しない。
b 被告武富士のATMを利用した返済については、返済前に債務者に充当関係の認識ができないから、法18条1項の要件を充たさない。
(2) 遅延損害金の起算点
ア 原告の主張
(ア) 被告武富士は、後記のとおり、悪意の受益者であるから、遅延損害金の起算点は、受益の日の翌日と解すべきである。
したがって、原告らの認容額は、それぞれ、別紙「(株)武富士 A」、別紙「(株)武富士 B」記載のとおりとなる。
(イ)〈1〉 被告武富士は、貸付をした際には、概ね、17条書面とする書面を発行することが多いが、原告らに対し、実際にはどのような書面が作成されたかは現時点では客観的な資料に基づく確認ができない。
〈2〉 店頭又はATMを利用した返済に際しては、概ね、18条書面とする書面を発行することが多いが、その実際の記載内容は現時点では客観的な資料に基づく確認ができない。
〈3〉 被告武富士が発行したという18条書面とする書面はおよそ実体関係とかけ離れた記載内容であった。
即ち、被告武富士のATMを利用した返済については、主に返済前に債務者に充当関係の認識ができないことを理由に、法18条1項の要件を充たさないことは、後に、被告武富士が上告をしなかったため、後に高裁で確定した平成9年2月21日言渡東京地裁判決(以下「平成9年東京地裁判決」という。)で明確に認定され、その時点で被告武富士に知りうるところとなっている。
被告武富士は、その直後ATMの仕様を変更し、事前に充当関係を表示して、弁済者に充当関係を認識して貰う扱いにしたが、被告武富士は、それ以前の取引がみなし弁済の要件を充たさないことを知りつつ、受取証書に記載された貸付額を減額することはなかった。このように、被告武富士が発行していたという18条書面とする書面は、およそ実体関係とかけ離れたものであった。
〈4〉 更に、銀行振込による返済を受けたときは、そのような不完全な18条書面とする書面すら発行されなかった。
これは、最判平成11.1.21判タ995号71頁(以下「平成11年最判」という。)が銀行振込による返済についてもみなし弁済の適用を受けるためには、受取証書の交付が必要と判断する前後でも変わらない。
また、このような、平成11年最判は突然出されたのではなく、京都簡判昭和59.8.8判時1152号158頁他多数の下級審判決が、同様の判断をしており、他方、発行がない場合にみなし弁済を認めた裁判例はない。
〈5〉 被告武富士は、それをどのように法的評価するかは別論としても、以上の〈1〉ないし〈4〉の事実を知っていた。
即ち、被告武富士は、利息制限法所定の制限利率を超過する利息を超過すること(法律上の原因の存在しないこと)について悪意であり、かつ、前記〈1〉ないし〈5〉を総合すると、みなし弁済が成立すると信じることについて相当の理由もなかった。
なお、被告武富士の悪意に関連する事実を整理すると、別紙(原告平成15年10月8日付第9準備書面添付)のとおりとなる。
(ウ) 利息制限法所定の制限利率を超える利息債務は法的に存在しないのが原則であって、制限超過利息の利息充当が有効とみなされる殆ど唯一の例外がみなし弁済である。
みなし弁済は、貸金業者が貸金業者として当然行うべき貸金業規制法上の義務を履行した場合、恩恵的に制限超過利息を有効に受領することを認めたものであって、以上の法の趣旨からみなし弁済の要件事実の全部は、貸金業者側が負担することについては、学説・判例上争いがない。
ところで、多くの消費者金融の貸金業者は、厳格なみなし弁済の要件を遵守することを怠ったまま出資法5条所定の刑罰金利ギリギリの制限超過利息を一般市民から徴収し、その結果発生した過払金について、借主側から返還を請求される都度返還に応じているのが実情である。
以上のような、みなし弁済に関する立証責任の分担と消費者金融の貸付実体に鑑みると、借主側は、借入が制限利率を超過して行われたことを主張、立証すれば足り、貸金業者側は、みなし弁済の要件の立証のみならず、その立証ができない場合の受益者の主観的要件についての立証責任をも負担すると考えるのが公平の原理に適う。
イ 被告武富士の主張
(ア) 被告武富士は、悪意の受益者ではないから、遅延損害金の起算点は、請求のあった日の翌日と解すべきである。
したがって、利息制限法に則って計算すべきとしても、原告らの認容額は、丁1記載のとおりとなる。
(イ)〈1〉 原告の主張(イ)〈1〉について
被告武富士は、会社の業務として大々的に消費者金融業を行っているのであり、顧客との最初の取引時点で包括契約書面を取り交わさない理由は何もなく、逆に、包括契約書面を取り交わしていなければ多くの不都合が予想されるのであって、確実に包括契約書面を作成・交付していると推認できる。
また、会社の悪意を判断する際の主体は問題であるが、役員・社員一同は、被告武富士では、例外なく、顧客に包括契約書面を作成・交付していると認識していた。
〈2〉 原告の主張(イ)〈2〉について
ATMの不具合の頻度について、被告武富士の平成14年1月1日から同年3月31日までの間の障害発生件数の入金取引件数に占める割合は、0.014%に過ぎない。
この確率に照らせば、被告武富士の役員・社員は、ATM取引では個別契約書面や受取証書を顧客に作成・交付していると認識していた。
〈3〉 原告の主張(イ)〈3〉について
原告が指摘するとおり、被告武富士は、平成9年6月に、ATM画面を変更し、取引内容、すなわち、投入金額、返済金額、利息・遅延利息・元金への各充当金額などが表示され、かつ、確認と手続取消の二つの選択ボタンがあり、「お取引の内容をご覧になり、よろしければ確認を押してください。」と表示される画面を追加した。この事実は、被告武富士において、巨額の資金を要するものであるのに、法43条を意識してその要件を充たすべく、行ったものであるから、被告武富士が善意の受益者であることを示している。
個別事件の裁判において法的評価の面から法43条の要件の欠如が指摘されたからといって、被告武富士がその時点から過払金の発生について直ちに悪意になるものではない。
〈4〉 原告の主張(イ)〈4〉について
銀行振込による返済の場合、弁済者から請求がなければ、18条書面の交付がなくとも、法43条が適用されるという見解が有力に主張されており、立法担当者もこの見解を採用していた。
法43条の適用を受けるためには、銀行振込による弁済の場合でも18条書面を交付することが必要との見解を採用した平成11年最判も、特段の事情がある場合には、例外を認めているところ、未だ特段の事情については明らかにされていない。
また、借主が銀行振込による返済の場合に予め18条書面の交付を拒絶している場合(包括契約書面の契約条項には、その旨が明記されている。)には、貸金業者には18条書面の送付の必要はなく、それを保管しておきさえすれば、法43条の適用があるとの見解も主張されている。
〈5〉 利息・損害金として任意に支払われたとの認識
最判平成2.1.22民集44巻2号369頁(以下「平成2年最判」という。)は、法43条1項にいう債務者が利息・損害金として任意に支払ったとは、債務者が契約所定の利息・損害金の支払に充当されることを認識した上、自己の自由な意思によってこれらを支払ったことをいい、債務者において、その支払った金銭の額が利息制限法所定の制限額を超えていること、あるいは、当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しない旨判示した。
そして、それについて公表された判例解説や論評によると、利息・損害金としての支払と認められるためには、借主が約定の利息・損害金に充当されることさえ認識していれば足り、約定の利息・損害金が具体的にいくらであるのかまでを借主が認識していることは要求されていないと理解している。
したがって、被告武富士の平成9年6月の被告武富士のATM画面の変更は念のためのものである。
(ウ) 法人の認識が問題となる場合には、法人の代表者について判断すべきであって、法人の被用者の悪意をもって法人の悪意とすることはできない(最判昭和30.5.13民集9巻6号679頁)。


コメント