債権回収
弁護士による債権回収のメリット(売掛金等の回収に悩んでおられる会社の方へ)
1 取引先が任意に代金を支払わないとき
① 面談による催促及び電話による催促
面談や電話により相手方に支払を催促するという方法は、一番単純かつ簡単な方法であり、多くの会社において弁護士に相談する以前の最初の段階に行っておられるものと思われます。
そのコツは、一言で言えば、「相手方の気持ちに訴えかける」ということでしょう。面談による催促も電話による催促もあくまで相手方が任意に支払ってくれることを期待して行うものです。このため、常にけんか腰で相手方に催促してみても、上手く行く筈がありません。例えば、面談や電話の時間帯を変えてみたり、わざと相手方と世間話をしてみたりするなど工夫が必要です。もっとも、「相手方の気持ちに訴えかける」というのは、相手に快く支払わせるということと同じ意味ではありません。現実には、相手方がこちらの催促に応じて快く代金を支払ってくれた等ということはむしろ稀といえるでしょう。このため、「相手方の気持ちに訴えかける」とは、相手方にこの会社(ないし担当者)には支払わざるを得ないというような「諦めの気持ち」を生じさせることと言ってよいと思います。
しかし、面談や電話を重ねても、必ずしも相手方に諦めの気持ちが生じる訳ではありません。そのような場合、交渉において、どこまで強い姿勢で相手方に代金の支払を請求してよいのか(どこまでが債権回収として許される範囲内なのか)について、疑問に感じたことのある方は多いと思います。
この点、犯罪(脅迫や恐喝など)に該当するような方法が許されないことは当然ですが、いかなる場合にそれらの犯罪に該当するのかという判断基準は、一般にあまり知られていませんし、司法書士や行政書士の資格を持つ人でも刑事法について詳しい人はほとんどいないのが実状です。 また、犯罪とまではいかなくても、不相当な債権回収方法を用いたことにより、逆に相手方から損害賠償請求を受けることもあり得ます。 さらに、弁護士以外の者を代理人として債権回収業務を行わせることは法律上禁止されています(弁護士法72条)。
このため、債権回収に困った場合、弁護士に相談・依頼することは、解決の第一歩です。通常、弁護士は職業上刑事法の知識が豊富であることに加え、訴訟手続ないし強制執行手続までトータルな法的知識を有しています。従って、弁護士に相談することで、よりよい債権回収方法が見つかるかもしれませんし、相手方から脅迫や恐喝などと主張されたり、損害賠償請求を受けたりするリスクを減らすことができます。
そして、面談や電話による催促を同じく行うにしても、弁護士に依頼して相手方に催促して貰えば、相手方に対する心理的な強制力が全く違います。相手方には、こちらが弁護士まで立ててきたということ自体で、もはや支払わざるを得ないという「諦めの気持ち」が生じることも少なくないのです。(→弁護士宮脇常亨に相談する)
さらに、仮に催促しても相手方がこれに応じず支払ってくれなかった場合でも、当初より弁護士に相談していれば、直ちに次の法的手段に移ることができます。
② 内容証明郵便による催促・督促
当然ですが、弁護士に依頼しなくても、会社が自ら、売掛金等を請求する内容の内容証明郵便を作成してこれを相手方に送付することは可能です。実際にも、そのような内容証明郵便を利用して相手方に代金の支払を催促した経験のある方も多いでしょう。
しかしながら、会社が会社の名義で内容証明郵便を送付したのでは、基本的には通常の請求書を普通郵便で送付した場合と同じであり、相手方に対する心理的な強制力はさほど強くありません。
また、事案が複雑で文章化するのが困難な場合には、会社(ないし法務担当者)が内容証明郵便を自ら作成するには時間と労力がかかり過ぎてしまうこともあります。
さらに、相殺や時効に関する法的な主張も併せて行う必要がある場合等は、会社(ないし法務担当者)だけでは、内容の正確性に自信が持てないケースも考えられます。
このため、弁護士の作成した代理人弁護士の名義での内容証明郵便を送付することには大きなメリットがあります。
すなわち、弁護士による内容証明郵便が届いた場合、まず相手方は、会社発行の請求書とは全く異なる手紙が届いたという認識を持つことでしょう。そして、相手方は、このまま支払わないでいると弁護士によって裁判を起こされるかもしれないという心理状態になる筈です。実際、弁護士は、内容証明郵便で相手方に請求する場合、必ず期限を設定します。期限内に支払わなければ法的措置を講じる旨明記することにより、相手方に「諦めの気持ち」を生じさせるのです。そして弁護士であれば通常、複雑な事案でも要点を絞り明快な形で、法的主張も正確な形で、内容証明郵便を作成することができます。
なお、内容証明郵便の作成を司法書士や行政書士に依頼する方法もありますが、司法書士や行政書士は、元々民事・商事のみならず刑事法まで含めたトータルな法的サポートを行うことを予定した資格ではないため、法的知識の正確性・豊富さの点で疑問がない訳ではありません。また、内容証明郵便を送付した後の相手方との交渉については、簡易裁判所における代理権を有しない司法書士及び全ての行政書士は、弁護士法72条に抵触するため、原則として行うことができません。このため、せっかく送った筈の内容証明郵便も、いわば「送りっぱなし」になってしまうおそれがあります。
相手方との交渉はもちろん、最終的には訴訟や強制執行までトータルに担当できる弁護士だからこそ、相手方に対する心理的な強制力が強く働くのであり、安易にコストがかかるという理由で弁護士を避けるのは得策ではありません。企業としては、毅然とした対応が求められる場面が少なくない筈です。そのような場面においては、弁護士による内容証明郵便の活用を是非検討してみるべきでしょう。(弁護士宮脇常亨の内容証明郵便作成手数料は、特に複雑な事件を除き3万1500円です。)(→弁護士宮脇常亨に相談する)
ちなみに、一般によく内容証明郵便と言われているものは、厳密には「配達証明付き内容証明郵便」と呼ばれるものであることがほとんどです。つまり、内容証明郵便というのは、文字どおり文章の内容を郵便局が証明してくれるというものにすぎません。手紙の文章の内容が後で問題におそれがあるときに普通郵便ではなく内容証明郵便として送付するのです。これとは別に、配達証明郵便という制度もあります。これは、郵便物が相手方にきちんと配達されたことを郵便局が証明してくれるものです。送った手紙が本当に相手方に届いたのか否かが後で争いになるおそれがあるような場合に用いられます。そして、内容証明郵便で相手方に手紙を送る必要があるときは、文章の内容のみならず、相手方への配達についても、郵便局に証明して貰うべき場合がほとんどであるため、ほとんどの内容証明郵便には配達証明も付けられているのです。
③ 民事調停手続
調停とはいわゆる話し合いのことです。調停は、裁判所を利用する手続ですが、弁護士を立てることなく、会社が自ら調停の申立を行うことは可能です。実際にも、調停は弁護士を立てずに申し立てる人が多い制度です。訴訟をはじめとする裁判所の手続にはいずれも、申立時に収入印紙が必要ですが、調停の場合は訴訟の場合に比べ、印紙代が半額となります。このため、請求額が100万円までの場合は、10万円ごとに500円(例えば30万円の請求なら1500円)の印紙で済みます。
しかしながら、調停はあくまで話し合いですから、相手方がそもそも裁判所に出頭しなければ調停が成立することはあり得ません。また、相手方が出頭してきたとしても、相手方が支払を拒み続けるなどして話し合いが付かなければ調停は不調(不成立)となって、手続が打ち切られてしまいます。
このため、会社が自ら調停を申し立てたとしても、相手方が狡猾な場合には不当な引き延ばしに利用されるおそれもあり、さほど実効性がないおそれがあります。また、実際には会社が(調停不成立後の)訴訟まで準備していたとしても、相手方には「まだ弁護士には依頼していないようだからいきなり訴訟を提起される可能性は低いだろう」等という安易な考えを抱いてしまうおそれもあります。
これに対し、弁護士に依頼して調停を申し立てた場合には、相手方には強いプレッシャーがかかります。調停期日に欠席したり、調停を不成立にさせたりすれば、弁護士はすぐに手続を訴訟に移行させてくるかも知れないという気持ちを相手方に生じさせることができるのです。弁護士が調停を申し立てることにより、相手方には、裁判所へ出頭しなければならないという気持ちや、このまま調停が成立しなければ次は訴訟になるという気持ちが、芽生えやすいのです。
確かに、弁護士に依頼して調停を申し立てるには費用がかかります(弁護士宮脇常亨の場合、着手金10万円~)が、比較的早期に解決できる可能性が高まると思われること、及び、会社が自ら調停を申し立てる場合にも一定のコストがかかることからすれば、会社にとってのメリットは大きいものと思われます。(→弁護士宮脇常亨に相談する)
④ 支払督促手続
支払督促手続とは、「支払督促」というタイトルの書類を裁判所から相手方に送付して貰い、相手方の反論がなければ、「支払督促」に記載された債権を公的に認めて貰うことができるという制度です。なお、支払督促手続は、請求する債権の内容が主に金銭を請求するものに限られています。このため、支払督促手続は金融業者などが弁護士を立てずに裁判所に申し立てるケースが多いという特徴があります。(申立時にかかる印紙代は、調停と同じく訴訟の場合の半額です。)
しかし、「支払督促」に対して相手方が異議(督促異議といいます。)を申し立てた場合には、「支払督促」は効力を失ってしまいます。相手方の支払拒絶意思が強ければ強いほど(相手方が狡猾であればあるほど)、異議を申し立てられる可能性は高くなります。
確かに、異議が出された場合には自動的に訴訟手続に移行するのですが、最初から訴訟を提起していた場合に比べ、余計に時間がかかってしまうおそれがあります。
また、「支払督促」は、必ず相手方の住所地ないし事務所所在地の簡易裁判所書記官に申し立てる必要があり、それが遠隔地の場合にはコスト及び時間がかかるおそれがあります。特に、督促異議の申立があった場合には、支払督促を申し立てた相手方の住所地で引き続き通常訴訟を進めねばなりませんので、注意が必要です。
さらに、「支払督促」は、相手方の住所が判明していない時には利用できません。(訴訟であれば、相手方の住所が判明しなくても、公示送達という方法により、手続を進めることができます。)
このようなことから、支払督促手続については、弁護士がこれを代理して行うケースはごく稀といえます。弁護士は、「支払督促」を用いて時間を浪費するリスクを負うよりも、最初から訴訟を提起した方が結局のところ早期に解決できると考えるのが通常です。
⑤ 少額訴訟手続
少額訴訟手続とは、60万円以下の金銭の支払を請求する訴訟を提起する際に求めることができる特別な訴訟手続で、原則として審理を1回のみで終わらせて直ちに判決を行う手続です。この手続も「支払督促」と同様、個人や会社が代理人を立てずに自ら申し立てることを予定した簡易な制度ですので、弁護士を立てずに申し立てるケースがほとんどです。ただし、支払督促と同様、相手方の住所が判明しない場合に公示送達の方法を採ることはできません。
しかしながら、この少額訴訟手続も、相手方が少額訴訟手続に応じず、通常訴訟への移行を求めた場合には、通常訴訟へ移行されてしまいますので、最初から通常訴訟手続を選択した場合に比べて時間を浪費するおそれがあります。
また、少額訴訟手続によってなされた判決に対し、相手方から異議の申立がなされた場合は、再び審理をやり直すことなり、大きく時間を浪費してしまうことが予想されます。
このようなことから、債権回収の依頼ないし相談を受けた弁護士としては、あえて少額訴訟手続を選択して時間を浪費するリスクを負うよりも、最初から通常の訴訟手続を選択すべきと考えるのが通常です。
⑥ 訴訟手続(通常訴訟手続)
今まで見てきたとおり、訴訟以外の債権回収方法には様々なデメリットがありますが、(通常)訴訟手続は、債権回収方法としては一番の正攻法といえます。(もっとも、訴訟手続においては、訴訟上請求する債権の存在を証明するための証拠資料が厳格に要求されます。後で無用の争いが生じることを避けるという予防法務の観点からは、相手方との取引上のやりとりを記録した文書等の証拠資料はきちんと保存しておくことが重要です。)訴訟手続については、審理を何度も重ねて何年も時間がかかるというイメージをお持ちの方も多いかもしれませんが、実は第1回目の裁判期日終了後直ちに(勝訴)判決が出るケース(相手方が何らの反論もせずに裁判に欠席した場合で、これを欠席判決といいます。)が非常に多いのです。また、相手方が裁判期日に出頭した場合でも、事実関係を争うことなく「一括では支払えないので、分割払いにして欲しい。」等と和解の申し入れをしてくるケースも非常に多く、このような場合には直ちに判決とはいかないにしても、裁判上の和解交渉がまとまらないときはいつでも和解交渉を打ち切って、早期に(勝訴)判決を貰うことができます。
また、(通常)訴訟手続の場合は、相手方の住所が判明しない場合には、公示送達という方法により、(勝訴)判決を貰うことが可能です。
ただし、訴訟手続により(勝訴)判決を貰ったとしても、相手方がその判決に従わず、代金を支払ってくれないことも考えられます。もっとも、そのようなリスクは訴訟手続に限ったものではありません。判決という言葉の持つ「従わざるを得ないもの」との一般的イメージからすれば、訴訟手続は支払督促手続などに比べて一番実効性が高いと言えます。(→弁護士宮脇常亨に相談する)
なお、判決といえども「財産の無いところからは回収できない」という原則を打ち破ることはできません。但し、現時点では相手方に財産が全く無いように見えても、後に隠し財産が見つかる可能性があるとか、給料や退職金が入ってくる予定があるとかいう場合には、とりあえず先に判決を取得しておくことに大きな意義があります。強制執行手続の前提として先に判決を取得しておく必要があるからです。
⑦ 強制執行手続
確定判決、和解調書、調停調書及び仮執行宣言付き支払督促などは「債務名義」と呼ばれ、債務名義を取得したのに相手方が任意の支払に応じない場合には、裁判所に強制執行を求めることができます。相手方が確定判決などに従わないからといって、相手方から無理に財産を奪い取るようなことは禁じられています(自力救済の禁止)。
強制執行には、大きく分けて3種類あります。①不動産執行(相手方が有する不動産を差押えて、競売にかける方法)、②動産執行(相手方が有する動産を差押えて、競売にかける方法)、③債権執行(銀行預金や給料など相手方が有する第三者に対する債権を差し押さえて、当該第三者(第三債務者といいます)から債権の取り立てる方法)です。
このうち、①不動産執行は、不動産には先に金融機関の抵当権が付いているケースが多いこと、競売の場合は任意売却に比べて低い価格でしか売れないこと、買い手が現れるかどうかが不明であること、手続に長い時間がかかること、そのため他にも債権者が現れた場合には債権額に応じて平等に配当を受けられるにすぎないこと等の理由から、一般の企業が行う債権回収としては、あまり利用されていません。また、②動産執行については、多くの家財道具はその差押えが禁止されていること等から、これもほとんど利用されていません。
従って、一般の企業において強制執行手続といえば、そのほとんどが③債権執行ということになると思います。そして、債権執行の中心は銀行預金の差押えといえます。
この点、銀行預金を差押えれば、回収すべき金額の範囲内である限り、差押時の預金残高をそのまま回収することができます。(但し、当該銀行が相手方に対して貸付を行っているような場合には、銀行が相殺を主張して回収できない場合もあります。)また、相手方が企業であれば、相手方の営業に重大な支障が生じるため、仮にその口座にほとんど預金がなかったとしても、相手方に任意に代金を支払わせることができる場合があるのです。
また、相手方が債権を有している相手方の取引先等の第三債務者が判明している場合には、相手方の有する当該債権を差押えることもできます。相手方は、自らの取引先からの信用を失いたくないとの理由から、差押後に任意に支払ってくる可能性もあるのです。ちなみに、給料の差押の場合には、原則としていわゆる手取額の4分の1までしか差押えることができません。
いずれにせよ、これらの債権差押の方法は、相手方の預金や取引先といった情報を事前に把握していることが前提ですので、要注意の相手方に関しては、事前に調査して予め情報を取得しておくことが重要です。
このように、強制執行手続は債権回収における最後の手段として非常に有効です。最初から弁護士に相談・依頼しておけば、強制執行まで含めた債権回収のトータルサポートが可能なのです。
⑧ 保証人への請求
もし、相手方の債務を保証する、保証人を付けていた場合には、保証人に対して請求可能ですので、これも有効な債権回収方法の一つといえるでしょう。(紛争を未然に防止する予防法務の観点からは、信用に不安のある相手方には取引の最初に保証人を求めておくことが肝心です。)仮に保証人が、単なる保証人ではなく連帯保証人であれば、なおさら請求しやすいといえます。すなわち、元々保証人は、主たる債務者の債務を保証しているにすぎず、自ら債務を作った訳ではありません。このため、保証人にしてみれば、主たる債務者の支払能力が十分あるのに、いきなり債権者が保証人に請求してきたら、まず先に主たる債務者に請求してくれと言いたくなるのは当然です。このため、民法上、単なる保証人に関しては、先に主たる債務者に請求しろという抗弁権を認めています(催告の抗弁権及び検索の抗弁権:民法452条及び453条)。これに対し、主たる債務者との連帯責任をより厳格にした連帯保証人については、そのような抗弁権が認められないのです(民法454条)。
なお、(包括)根保証といって、相手方との契約上発生する様々な債務を(保証期間や保証限度額などを全く定めずに)継続的かつ包括的に保証するような保証契約(根保証契約)も、今まで実務上多く見受けられましたが、平成16年の民法改正により、貸金等を含む債務についての根保証については、予め設定された保証限度額(極度額)の範囲内に保証人の責任を限定するとともに、保証期間も最長5年に限定されました。民法改正前に保証人と根保証契約を締結して以降、未だ極度額の設定をしておられない会社は、弁護士と相談して極度額の設定等、民法改正に合わせた対策を取っておくべきです。
2 取引先が破綻してしまったとき
① 相殺
取引先が破綻してしまった場合、取引先に対して有していた債権の回収は非常に困難です。特に、不動産担保を有していない一般の企業にとっては、その後の破産手続等において配当金(10%もあれば御の字)を受領できるだけで、債権のうちの大半は、もはや回収不能として諦めるしかないケースも多いかと思います。
しかしながら、諦めるにはまだ早いというケースもあります。そのように取引先が破産しても債権回収が図れるケースの代表例として「相殺」が挙げられます。
相殺とは、当事者間で対立する債権を相互に保有し合っているような場合に、一方当事者の行う一方的な意思表示によって、両債権を同じ金額分だけ共に消滅させることができるという制度です。取引先が破綻してしまった場合でも、取引先に対して債権と債務の両方が存する場合には、両者を相殺することにより、取引先に対する債権を回収したのと同様の効果を得ることができるのです。(例えば、同じ会社内の異なる部署でそれぞれ取引が行われていたようなケースは、相殺できることを見落とす危険性がありますので注意が必要です。)
もっとも、相殺の意思表示をするにはどうすればよいのでしょうか。既に破産手続が開始された場合には誰に対して意思表示をすればよいのか、相殺の意思表示を含む文章はどのように書けばよいのか等、正確かつ万全を期したい企業の法務担当者としては、頭を悩まされるところと思います。
この点、弁護士を利用すれば、文章の内容を法的に正確に書くことができるのみならず、破産手続等の法的整理手続に応じて意思表示の相手方を選択し、(配達証明付き)内容証明郵便を利用する等してより確実な方法で、相殺の意思表示を行うことができます。
なお、テナントとして入居しているビルの大家さん(貸主)が破綻し、破産手続が開始された場合、大家さんに支払うべき毎月の賃料(支払債務)と、従前より大家さんに差し入れていた敷金(返還請求権)とを相殺することはできるのですかというご相談を受けることがあります。確かに両者は対立する債権債務といえますし、大家さんが破産した以上敷金は返還されないおそれがあるため、(借主側の)気持ちはよく分かりますが、残念ながら、不動産の明渡し前に賃料と敷金とを相殺することはできません。明渡し後に初めて返還請求できることとして借主の債務不履行等による損害から貸主を保護しようとした敷金の基本的性格に反するからです。もっとも、借主が大家さんの破産後も賃料を支払う場合には、寄託請求(破産法70条)という方法により、賃料と敷金とを後に相殺することが可能です(この場合は、破産管財人に対する内容証明郵便を用いて寄託請求を行うべきです)。
このように、より確実な方法により相殺等の法律的な意思表示を行いたいとお考えの企業ないし法務担当者の方は、是非弁護士に相談されることをお勧めします。
② 動産売買の先取特権に基づく物上代位による債権差押
動産を相手方に売却した場合、売主には、動産売買の先取特権という担保権が当該動産の上に発生します(民法311条5号)。すなわち、売主は、買主に売却した動産を競売して換価し、優先的に代金の支払を受けることができるのです(民法321条)。
しかし、動産の買主について破産手続が採られた場合、売主は破産管財人による換価を阻止することはできず、優先的に代金の支払を受けることはできません。このため、残念ながら、動産売買の先取特権を有する売主は、当該動産が破産した買主の手元に残っている場合には、先取特権を活用するチャンスはほとんどないと言ってよいでしょう。
もっとも、買主が破産前に当該動産を第三者に転売していた場合には、売主は先取特権を活用するチャンスがあります。売主は、動産売買の先取特権に基づき、買主が第三者に対して有する転売代金請求権という債権を差押える方法があるのです。動産売買の先取特権そのものは、当該動産が転売されて買主の手元から離れた以上、これを行使することはできないのですが、先取特権には追及効があり、転売代金など当該動産の代替物からも優先的に代金の支払を受けられるのです。これを先取特権の物上代位と言うのです。
従って、買主が破産前に当該動産を第三者に転売していて、第三者が未だその転売代金を買主に支払っていないような場合には、売主は、動産売買の先取特権に基づく物上代位による債権差押を行い、第三者から代金の回収(債権回収)を図ることができるのです。
もっとも、この手続は複雑であり、処理スピード及び第三者の協力も不可欠であるため、企業ないしその法務担当者において独自に行うことは極めて困難です。まずは、弁護士に相談すべきです。
③ 債権譲渡
債権譲渡とは、契約によって債権をそのまま移転させるものです。相手方から、相手方の有する債権について債権譲渡を受けておけば、相手方が倒産した場合でも、譲渡を受けた債権を取り立てて、相手方から直接的に債権回収したのと同様の効果を得ることができます。
ところが、破産法162条1項は、相手方の経営破綻後に行われた債権譲渡についてはこれを破産管財人が否認できるものとしていますので、債権譲渡は、必ず経営破綻よりも前に行っておく必要があります。
この点、従前の実務上、債権譲渡の契約自体は経営破綻前に行いながらも、相手方の信用不安を生じさせないため債務者への債権譲渡通知をあえて行わず、経営破綻時に債権譲渡通知を行う等の手法(停止条件付き債権譲渡など)が非常に多く見受けられましたが、平成16年9月14日の最高裁判決により、そのような手法による債権譲渡も否認の対象となることが明らかとなりましたので、注意が必要です。
相手方から債権譲渡を受ける場合には、債権譲渡特例法による債権譲渡登記を行うか、相手方の倒産前にきちんと債務者に対する債権譲渡通知まで完了しておく必要があります。なお、債権譲渡通知には「確定日付」が必要ですので、債権譲渡通知は内容証明郵便で送付するべきです。
④ 保証人への請求
事前に保証人を確保しておくことが債権回収の不能を予防する方法として一番重要です。


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